サミュエル・ナーマンさん
ロッテが日本で「雪見だいふく」を発売した1981年から、今年でほぼ40年。大福餅のような形状で、薄い求肥(ぎゅうひ)の皮のなかにアイスクリームが詰めてある雪見だいふくは発売当時、和菓子とバニラアイスの組み合わせが意表を突くものだった。他にはない味わいのアイス菓子は、今も根強い人気商品だ。
そんな祖先を持つ「餅アイス」Mochi glacéが今、フランスを席巻している。パリ市内のスーパーFranprix30店舗ではコーヒー、いちご、はしばみ、柚子といった風味の餅アイスが買えるし、デパートやショッピングセンターでも洒落たワゴンで販売されていたりする。
年間で約1万7千個の餅アイスを売るという若き実業家、サミュエル・ナーマンさんに会った。サイトのみで店舗は持たず、19時から2時/3時(金土)にデリバリーで一般に販売。レストランには卸していないが結婚式ほかお祝いの席、企業のセミナーなどにも配達する。
両親からパリの日本料理店で餅アイスを食べた話を聞き、自分も食べてみたいと翌日、同じ店に食事に行ったのが2016年3月。おいしいし、流行る!と直感が走り、アイスクリームの需要が高まる夏までに商売を立ち上げることを決意。16歳だったサミュエルさんは両親に相談し、自宅がある建物のなかに7m2の小部屋を見つけてオフィスとし、準備を始めた。
入手できる餅アイスはアメリカ、英国、タイ製などすべて試食。結局、おいしさと原材料の品質などの点からフランス製を選び、貯金でストック管理のための小さな冷凍庫を買う。思い立った日から2カ月後の5月にはサイトを立ち上げ、Deliverooなどの宅配業者と組んで餅アイスの販売を開始。サイトを公開すると20分後に最初の注文が入り、その晩で計100個を売る。
当初は夜11時までだった営業時間を午前2時までに延ばすと売り上げが3倍に。注文が入らないときはバカロレア(大学入学資格試験)の受験勉強。餅アイス販売も軌道に乗り始め、バカロレアも無事取得した後、ビジネススクールESSECに進学。でも、学校の授業より「実地の経験が何よりの勉強」と感じてスクールは辞め、今は仕事に打ち込む毎日。いっときはパリ市内に配達拠点を3カ所構えたが、今は一番注文が多かった11区に絞り、他の菓子類14種のデリバリーもしている。近いうちに餅アイスを自分で作ったり、食事類の出前にも手を広げるつもりだ。今、一番人気の餅アイスは、抹茶味、次にバニラ、そしてマンゴー。どんどん参入者が増えるなか、どうやって生き残る?「餅アイスはどこでも買えるけれど、深夜の宅配は私だけ。あと、日本ならではの味に、塩入りバターキャラメル味など、フランスなりの新商品も加えていくつもり」。
父親はテクノロジー分野の企業に勤め、母親は金融関係。「もちろん面倒はよく見てくれたけれど父親は出張がちで、両親と接するのは夜と週末くらい。でも、バリバリと仕事をしキャリアを積むふたりの姿を見ながら、自分もいつかビジネスを立ち上げたいと思っていました」という19歳のサミュエルさんの、閃光のごときビジネス・デビュー。外国に行くと、日中は甘いものやストリートフードを食べ歩くのが大好きだそう。「太るけどね!(笑)」。日本に行くのは来年の夏のバカンスだそうだ。(六)