Hyperréalisme Ceci n’est pas un corps
ロッテルダム、リヨンなど7都市を巡回し、大好評だった展覧会がパリのマイヨール美術館にやって来た。副題の「これは体ではない」は、ハイパーリアリズムの作家たちが制作する人体が、本物の人かと見間違えるほど精巧にできていることを示している。シュールレアリズムの画家、ルネ・マグリットが油彩「イメージの裏切り」の中で、パイプの絵の下に「これはパイプではない」と書いた言葉をもじったものだ。
ハイパーリアリズムには絵画もあるが、本展では彫刻だけを扱っている。この分野では英国で活動するオーストラリア人、ロン・ミュエクが有名だが、彼はその1人に過ぎない。あまり知られていないスペイン、イタリア、米国、ベルギーなどのアーティストの作品を展示することで、1960年代に始まり、今に至るハイパーリアリズム彫刻の裾野の広さを見せてくれる。
絵画では、写真に忠実に、感情を入れずに描く「フォトリアリズム」絵画と違い、ハイパーリアリズム絵画では現実ではないものや感情に訴えるものが入り込む。彫刻でも同じで、ハイパーリアリズム彫刻では、本物の人体と錯覚するほどの高度な技術を使いながら、実物サイズより大きかったり小さかったりする。ありえないシチュエーションにおける人体を作り出すこともある。
米国人トム・クエブラーが作った、疲れた表情で本物のタバコを咥え、バケツとハタキを手にした掃除婦は強烈な存在感を放つ。やはり米国人のデュアン・ハンソンは、ドイツの博物館から注文を受けた時、その建物で働く2人の男性を実物大で作ることにした。一人は工事を手掛ける労働者、一人はコンシェルジュで、二人を米国に呼び、型取りし、本人が着ている服を作品に着せた。決して表には出ることのない裏方の人々の姿を、多くの観客の目に触れる展覧会場に据えることで、作品に社会的な意味を持たせた。
ニューヨークのアーティスト、キャロル・A・フォイアマンは、この分野の草分け的存在。水から上がったばかりの女性の胸から上だけを作った、ビキニの水着と水泳帽をつけた女性の肌にはまだ水滴が付いている。目を閉じた女性の恍惚とした表情が美しい。
ハイライトは、オーストラリア人サム・ジンクスの「女性と子ども」だ(冒頭の写真)。人毛、本物の布も使い、老いた女性が赤ん坊を抱いている像を作った。女性の表情から、子供を抱いた時の彼女の感情が伝わる。祖母と孫のように見えるが、女性が生まれたばかりの自分を抱いていると解釈することもできる。
車椅子に座って、表情豊かにアート市場について話す男性「ヨナタン」を作ったのは、ドイツの二人組、グラザー/クンツだ。動くハイパーリアリズム彫刻が出現したかと思わせられたが、実は目鼻のない頭部にビデオで画像を映し出し、話しているように見せかけたトリッキーな作品だ。ビデオが終わると、ヨナタンは顔のない人形になってしまう。視聴覚のテクノロジーを使ったハイパーリアリズム彫刻もありうることを示す作品である。
会場には作者たちが語るビデオがある、どうやって、どんな思いで作っているのかを、制作現場の様子とともに知ることができる。
11月17日の夜は、パリ・ヌーディスト協会との協力で、ヌーディストのみを受け入れる。この展覧会を開いた他の都市で行い、好評だったという試みをパリでも行うというものだ。裸も着衣もある作品を前にして参加者たちがどう感じたか、感想を聞いてみたい気がする。(羽)
Musée Maillol
Adresse : 59-61 rue de Grenelle , 75007 Paris , FranceTEL : 01 42 22 59 58
アクセス : Rue de Bac
URL : https://www.museemaillol.com/
無休、10h30-18h30 水-22h 16€/14€/12€