気がつくとカンヌ映画祭もゴール間近。筆者もくたびれたぼろ雑巾のようになってきましたが、終わってしまうのもまた寂しいものです。
今年のカンヌも日本人監督の活躍がありました。まずはカンヌの申し子の是枝裕和監督。ソン・ガンホ主演の『ベイビー・ブローカー』でコンペ部門に参加しています。ガンホは2019年のパルムドール作品『パラサイト 半地下の家族』で名実ともに国際的な大スターに。一方の是枝監督も2018年に『万引き家族』でパルムドールを獲得したので、アジアのトップ監督と俳優との夢のコラボの実現になります。
『ベイビー・ブローカー』の公式上映は5月26日に行われ、ガンホを始め、カン・ドンウォン、イ・ジウン、イ・ジュヨンら韓国のスターとレッドカーペットを歩きました。出演者を見てもわかるとおり、本作は全編韓国語で撮影は韓国という韓国映画。是枝監督はすでにカトリーヌ・ドヌーヴやジュリエット・ビノシュら、フランス映画『真実』も制作していますから、国境の壁は感じさせません。
監督は公式上映後に日本人記者の前で登場。上映後の感想を聞かれ、「ちゃんと笑うところで笑い声が聞こえて、隣のソン・ガンホさんと手を握り合って良かったなという感じで。最後まで上映を僕自身も楽しめたので良い上映だったんじゃないかな」と手応えを語っていました。俳優との関係の良さも伺われます。
今年は他にもカンヌの地にしっかり爪痕を残した日本人監督の姿もありました。カンヌの学生部門であるシネフォンダシオン出身であり、今回は「ある視点」部門で『Plan75』を上映した早川千絵監督、そして、ACID部門で日本映画として初めて『やまぶき』が選ばれた山崎樹一郎監督です。この2本も秀作ですので、機会があればオヴニーでもご紹介できたらと思います。
そして、今回カンヌに選ばれたこれらの日本人監督作品(『ベイビー・ブローカー』『Plan75』『やまぶき』)では、揃いも揃って現代社会の生きづらさがしっかり描かれていたのが印象的でした。失敗を犯した個人を「自己責任」として断罪するだけでは済まされません。
さらに、カンヌの常連である河瀬直美監督もカンヌ入り。東京オリンピックについてのドキュメンタリー『東京2020オリンピック』を「カンヌ・クラシック」部門で上映しました。本作は主にアスリート側の目線に立った「SIDE A」と、大会関係者や一般市民らの主に裏側の人々を描いた「SIDE B」の二部作ですが、今回は「SIDE A」のみの上映。
それもそのはず、日本では劇場公開日が来月に決まっていますが、実は「SIDE B」がまだ編集中とのこと。河瀬監督は「カンヌに来てからは2時間睡眠。日本が夜が開けてくると遠隔で編集作業をしています。技術が進歩してありがたいのやら(笑)」と語っていました。
カンヌ映画祭はいよいよ今晩、授賞式で幕を閉じることになります。(瑞)