「アペリティフapéritifはいかがですか?」「いいですね!」…。友人の家に招かれ、あいさつやおしゃべりが一段落したころ、こんなふうにたのしいアペリティフ(食前酒)タイムがはじまる。アペロとも呼ばれる食前酒は、みんなの心をなごやかにしてくれるだけでなく、甘さと果実やハーブの香りが食欲をさそい出してくれる。
食前酒といえばまずポルトガル産のポルトー Portoやイタリア産でベルモット風味のマルティニ MartiniやチンザノCinzano(フランス人はサンザノと発音)。フランス産の食前酒ならノワイ・プラットNoilly Prat(コラム参照)やウイキョウ風味が強く、水で割ると白くにごるパスティスPastis(コラム参照)だろう。最近人気をとりもどしつつあるリレLilletは、ボルドーの南でつくられていて、オレンジなどのフルーツの香りがうれしい。
パスティス以外はストレートで飲むのがふつうだが、好みでレモンやオレンジの皮を入れたり、暑いときには炭酸入りミネラルウォーターを冷やしておいて適量加えるのもわるくない。食前酒はアルコール度が高めなので、一杯あるいはせいぜい2杯にしておくのが無難です。
ワインといっしょに楽しんだ食事が終わり、デザート、コーヒー、そして、くつろいで味わう食後酒 digéstif の出番となる。
代表的な食後酒といえば、シャラント県コニャック市を中心につくられているコニャックCognac。コロンバール種やユニ・ブラン種などのブドウからつくった白ワインをアルコール分70%に蒸留し、オーク材の樽で長い時間かけて熟成される。そして異なる熟成年と異なる原酒がブレンドされて独特の複雑な香りが生まれ、最後に水を足して度数40%に仕上げられる。等級だが、VSはブレンド用につかわれた最も若い原酒の熟成期間が2年以上のもの、VSOPは4年以上、Napoléonは6年以上、XOは10年以上のものだ。チューリップの形をしたブランデーグラスなど香りがひらきやすいグラスに、常温のコニャックを注ぎ、ゆっくり味わいましょう。
アルマニャックArmagnacは、ガスコーニュ地方のジェール県が産地で、コニャックと同じブドウからつくられた白ワインを蒸留し、オーク材の樽でじっくりと熟成される。熟成期間によってコニャックのような等級がつく。オーズ市近辺が産地のバ・アルマニャックBas-Armagnacは、プリュノーなどを思わせる香りがすばらしく、ファンが多い。
カルヴァドスCalvadosは、ノルマンディー地方でリンゴを原料としてつくられる蒸留酒。並みのものはコニャックより安いので、カフェのカウンターで人気もの。オークの樽で数年間熟成された「カルヴァドス・ペイ・ドージュ・オㇽ・ダージュCalvados Pays d’Auge Hors d’age」などは、コニャックやアルマニャックに引けをとらない。
ほろ酔い加減で会話がはずんでいくが、飲みすぎには気をつけましょうね。(真)
Noilly Prat
ベルモット酒vermouthは、ワインにシロップ、香草などを加えてつくられる食前酒だが、地中海沿岸のマルセイヤンという町で作られているベルモット酒がノワイ・プラット。戸外に置いたたるの中で1年間熟成させた白ワインに、レモンやフランボワーズ風味のアルコールを加え、さらに3週間、20種類以上のハーブやスパイスの中に漬け込むという。度数は18%と高いが、白ワインの柔らかな味わいが生きているし、甘さ加減も香草類の香りもバランスがとれている名酒! そのままアペリティフ、あるいはジンやウオッカとのカクテル、魚料理に使うのもおすすめ。
Pastis
マルセイユで生まれたアニス風味のアペリティフがパスティス。暑くなってくると、カフェのカウンターやテーブルでの人気者になる。パスティスには〈リカール〉、〈51〉、〈カザニス〉、〈ペルノ〉などの種類があり、それぞれ微妙に風味が異なる。そこで、ファンたちはお気に入りのものを名指しで頼むことになる。。細長いコップに、パスティス少々をとり、約4~6倍の冷水で割る。最後に氷2、3片を加える人もいるが、通はだんだん薄まってしまうといってピシェの中で氷で冷やされた水のみ。氷が落ちないようになっているパスティス専用ピシェはのんべえの知恵から生まれたグッドデザイン!
Eaux de vie de fruits
フランスではブドウが原料のコニャックやアルマニャック、リンゴが原料のカルヴァドスだけでなく、アルザス、ロレーヌ地方を中心に、ほかのさまざまな果物からも蒸留酒が作られている。主に食後酒として飲んだり、タルトやフルーツサラダにも香りづけに加えたりする。サクランボからは〈Kirsch〉、ミラベルは〈Mirabelle〉、洋ナシは〈Poire〉、フランボワーズは〈Framboise〉。口に含むと、それぞれの果物の香りが口中に広がっていく。そうそう、各ワイン生産地でブドウの搾りかすを蒸留して〈Marc〉(イタリアのグラッパにあたる)がつくられている。以上の蒸留酒は透明で色がついていない。