Patients
ポエトリー・リーディングのアーティストとして活動しているGrand Corps Maladeによる自伝的小説『Patients / 患者たち』が、同じSeine-Saint-Denis県出身の映画監督、Mehdi Idirとのタッグにより映画化された。
底の浅いプールに飛び込んだがため、体を強打し脊椎を損傷、全身不随となりリハビリセンターに送られて来た一人の青年ベン。首より下は全く動かないという状態から、熱心に打ち込んでいたバスケットボールを再びプレイ出来るようにとリハビリに取り組む。
センター内で出会う医者や看護師、自分と違う境遇で苦しむ半身不随の患者や精神疾患の治療を受ける人などとの交流を通し、ベンが人として成長する様子が描かれる。
一瞬にして生き方が変わったものの、持ち前の明るさで直ぐにセンター内に友人を作り自分の居場所を見つけるベンだが、この仲間との結束こそ彼にとって辛く退屈な病棟生活という現実から逃れられる唯一の手段だったのだ。
このベンという主役はGrand Corps Malade(「病んだ大きな体」の意。以下GCM)自身をモチーフにした登場人物である。当時19歳だったFabien(GCMの本名)は映画同様、プールでの事故によって全身不随となり、3年間の治療とリハビリを通して奇跡的に歩けるまでに回復することに成功した。
仲間たちとのやり取りは、かなりユーモラスにみせる反面、それぞれ異なる疾患をもった患者の肉体的な痛みや、悲観的になる胸の内も同時に描いている。劇場で笑いが起こったと思えば、次には生々しい現実になす術なく打ちひしがれるシーンがあるなど描写の振り幅が激しい。このユーモアと痛みのコントラストも、実際にその痛みを体験した人による演出であるがためにリアリティが増す。
元々GCMは、「スラム」と言われるポエトリーリーディングのアーティストとしてフランスでは有名だ。スラムは1980年、アメリカのシカゴで生まれた詩の一種であり、自由な表現力を競う「言葉の格闘技」として成り立ち、1990年代にフランスに渡り、新しい詩的表現のスタイルとし0て広まった。本来はアカペラで語尾韻を踏むなどラップと類似した点もあるが、どちらかというと喋り口調で、詩の朗読に近く、言葉がダイレクトに伝わり易いという特徴がある。
GCM自身フランスラップの聖地とされるパリの北にあるセーヌ・サン・ドゥニ県出身。ラップに影響されながらもミニマルテンポに乗せドスの効いた声を乗せる独自の路線を築き、スラマー(Slameur)として現在まで5枚のアルバムを出し、今ではフランスのスラム界の第一人者となった。
15歳の時からすでに物を書くのが好きだったことから豊かな表現力を持っていたそうだが、事故によって「障害者」というアイデンティティが加わって以来、Grand Corps Malade(病んだ大きな体)を名乗り、身体や生命に対する直接的で達観した表現が色濃く彼の詞に反映されるようになった。映画内でも彼のスラマーとしてのリリシズムが光る印象強いセリフがいくつもあるところも見どころの一つだ。好評公開中。(佐)