戦後から1950年代の約15年間、トップ俳優として銀幕と舞台を駆け抜けた花咲ける貴公子ジェラール・フィリップ。「フランス初の国際的スター」とも称される彼は、1922年12月4日に南仏カンヌで誕生した。
つまり、2022年は生誕100年!フランスでは様々な形の生誕イベントが開催されてきた。カンヌ、アヴィニョン、リヨン、フィリップの家が残るパリ近郊セルジー……、そしてラストを飾るのがいよいよパリである。
映画の殿堂シネマテーク・フランセーズでは、12月7日から22日までレトロスペクティブを開催。初日に上映されるのはフィリップについてのドキュメンタリー、パトリック・ジュディ監督の『ジェラール・フィリップ最後の冬』だ。本作は37歳になるのを待たずして病で旅立った名優の人間味あふれる素顔(情熱的で利他的な映画人にして演劇人、平和主義者でコミュニスト、プライベートを守る良き家庭人など)を凝縮して紹介する。
シネマテークに足を運べない人には、12月16日にテレビ放映(22h50/France 5、ネットのreplay放映にも期待)も。映画はドゥ・マゴ賞を受賞した同名の本がベースとなっており、オヴニーでも紹介したことがある。先ごろ本は無事に日本語訳(『ジェラール・フィリップ 最後の冬』ジェローム・ガルサン 著/深田孝太朗 訳/中央公論新社)も出版されたばかり。
シネマテークではフィリップの代表作を中心に、出演作を一挙上映へ。フィリップが家族ぐるみで付き合っていたルネ・クレール監督との3作『悪魔の美しさ』、『夜ごとの美女』、『夜の騎士道』、公開当時スキャンダルを巻き起こした『肉体の悪魔』、『危険な関係』などは真っ先に見直したい。
スタンダール原作の『赤と黒』や『パルムの僧院』などの仏文学の金字塔的作品の映画化もいい。他方、異色の文学者レーモン・クノーが脚本として参加したルネ・クレマン監督の『しのび逢い ムッシュ・リポアの恋愛修行』は、ヌーヴェル・ヴァーグ到来前にロンドンの街で隠しカメラの撮影を敢行した作品。フィリップの“ドン・ファンぶり”とともに、さりげなく攻めた演出も気にしたいところ。
アヌーク・エーメ、ジャンヌ・モロー、ミシュリーヌ・プレール、ダニエル・ダリュー、マリア・カザレス、ミシェル・モルガンら共演女優の華やかさも圧巻だ。しかし、彼女たちに堂々と向かい合うフィリップは、女優に負けぬ美しさで後光がさしている。イヴ・アレグレの『美しき小さな浜辺』、マルセル・カルネの『ジュリエット あるいは夢の鍵 / 愛人ジュリエット』などは、20代の彼のミステリアスで繊細な美貌まで堪能できる隠れた名作であり、強くお勧めしたい。先ごろ、パリのBNFではジェラール・フィリップのシンポジウムが催されたが、ここでは研究者からフィリップの両性具的な魅力について言及があった。現代から彼の魅力を発掘するひとつの鍵になるかもしれない。
とはいえ、中身はいたって骨太、知的で情熱的な行動派でもあったフィリップは、実は生涯に一本だけ映画を監督している。脚本も手がけた『ティル・オイレンシュピーゲルの冒険』だ。自他共に認める失敗作だと言われるが、常に貪欲に前だけを向いていた夢追い人のフィリップが、制作する側として映画の冒険に出た作品が、この機会に鑑賞できるのも嬉しいことだ。(瑞)
●Rétrospective Gérard Philipe
www.cinematheque.fr/cycle/gerard-philipe-1010.html
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