第75回カンヌ映画祭のコンペ部門に登場したアルノー・デプレシャン最新作。昨年はプレミア部門で『Tromperie』を出品しており、カンヌは二年連続の参加だ。今回もデプレシャン組の有名俳優が出演。マリオン・コティヤールが俳優である姉のアリス、メルヴィル・プポーが詩人で元教師の弟ルイに扮する。
冒頭は子供を亡くし嘆き悲しむルイの姿。アリスは久方ぶりにルイの家を訪れるが、ドア越しで罵詈雑言を浴びせられる。二人の過去に深刻な何かがあったらしい。だが、その理由があまりわからないのが、この映画の特異な点。ボタンのかけ違い、親の愛情の注ぎ方、互いの嫉妬などがあったのだろうか。それらがこんがらがり、20年以上も疎遠となった兄弟である。馬鹿馬鹿しい?たしかに馬鹿馬鹿しいが、残念な家族関係は全く珍しくないことだ。
一方、こんなにも憎しみだけに焦点を当てるドラマは珍しい。その上、姉と弟はやたらと涙を流し、公の場でも我を忘れ怒鳴ったりと激情型。やり過ぎ感もあり、演技派のコティヤールが大根役者に見えてしまうほどだ。
どうして監督はこんなにも「憎悪」に興味を持ったのか。劇中ではルイがアリスのことを書いた本を出版し、激怒するシーンがある。ここで思い出すのが、以前デプレシャンが俳優のマリアンヌ・ドニクールに『Mauvais genie 悪い天才』という名の暴露本を出された過去。実人生の辛いエピソードを勝手に利用され、映画『キングス&クイーン』が撮られたことに対するドニクールの抗議だった。当時は彼女の方が映画界の腫れ物扱いをされ気の毒だった。それから時が流れ、今回は兄弟の話ではあるが、デプレシャン自身がよく知る「憎悪」という感情を中心に据えた。
その是非はともあれ、負の感情まで全て作品に昇華するのは、芸術家のひとつの生きる道ではあるだろう。(瑞)