“Les Félins”
フランスにいるイエネコの数は1500万匹。フランスの人口は約6800万人なので、4、5人につき一匹いることになる。猫と暮らす人がいかに多いことか。国立自然史博物館の「進化の大ギャラリー」で開催中の「ネコ科の動物」展は、猫についてもっと知りたい愛猫家の期待を裏切らない展覧会だ。常設展とあわせれば、半日は十分楽しめる。
会場に入ると、トラやライオンのような大型種から世界最小のサビイロネコまで、世界中の38種の野生のネコ科の動物の剥製が一斉に並んでいる。見たこともない可愛らしい猫がたくさんおり、電子パネルのボタンを次々押して、個々の種の説明を全部読みたくなるほどだ。
しかし、可愛らしい、だけで止まってはいけない。隣で上映する10分の映画は、これらの野生動物が絶滅の危機に瀕しており、有名な種には保護のための予算が出るが、あまり知られていない種にごく少ない金額しか出ず、知らないうちに絶滅してしまう危険があることを教えてくれる。それだけでなく、欧州は熱帯雨林を切り開いて作った牧畜地で飼育した牛肉やそこで栽培される大豆を輸入する消費社会を作っているので、欧州人は野生動物の絶滅に責任がある、と観客に自分のこととして考えさせる映画なのだ。
フランスにいる野生のネコ科動物といえば、オオヤマネコ(ランクス)だ。1928年に絶滅。その後1970年代にスイスからジュラ地方に導入した。しかし、家畜を襲うので困ると言う畜産農家と、「自分達の獲物を取ってしまう」と言う狩猟家から敵視され、撃たれたオオヤマネコが森の中で発見されることが問題となっていた。その後、2015-2020年にドイツが導入したオオヤマネコが国境を超えてフランス側に入り込んだため、現在は158頭いるという。自身が狩猟の対象とされただけでなく、生息地や餌となる動物を人間に奪われてきた。17世紀に銃が普及し、狩猟に使われるようになったことが、この現象に拍車をかけた。オオヤマネコと人間の関わりを年代順にした表が、この動物についての理解を深めるのに役立つ。
ネコ科の動物の身体機能はどうなっているのか。猫と暮らしていると、人間が気づかない場所にいる小さな虫を目で追っていることがよくある。間近のものは焦点が合わずぼんやり見えるが、動くものははっきり見えるのだそうだ。そんな特徴を最大限に発揮し、穴の中や積もった雪の下にいる小動物が発する声や音を聞きつけて飛びかかる。長い脚を利用して2−3メートル飛んで獲物を捕らえる。野生動物の狩りの様子が大画面に映し出される。
そんな猫の目の構造、人間が聞きとれないところまで聞き取る聴覚、歯が退化したので餌は噛まずに丸呑みする、など、知っているようでも言われて初めて納得することが、次のコーナーで示される。
後半は、世界の文化でライオン、トラ、ヒョウ、ピューマなどの大型動物が、世界の様々な文化圏において、どのように象徴的な動物として捉えられてきたかを見せている。派手な獅子が踊る中国の獅子舞、優雅にステップを踏んで踊るインドネシアの獅子舞、白い獅子が寝転んで踊るチベットの獅子舞など、近隣諸国の多様な獅子舞のビデオが面白い。
また、会場で多くの野生動物を見て「飼ってみたい」と思う人が出てこないように、主催者は釘を刺している。「SNSに、野生動物と一緒の写真がよくアップされているが、大きくなると危険で処分に困って捨てる人がほとんど。家で飼えるのはイエネコ種だけ」と警告するビデオが出口近くで流れる。ビデオでは、外で野生の種と交配して野生種を絶やさないよう、ペットの猫は必ず去勢することを勧めている。
こうして最後は猫に戻る。「猫と芸術家」のテーマで、ヘミングウェイのグラスを舐める猫、村上春樹と愛猫、猫に覆いかぶさって可愛がるバルバラ、ベッドに座ったマティスの脚の間に座る猫など、猫と猫好き著名人の写真が並ぶ。どの人からも無限の愛情が感じられる。やっぱり猫は可愛いなぁと、自分の猫愛を再確認するのであった(羽)。2024年4月21日まで
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Museum National de l’Histoire Naturelle (MNHN), Grande Galerie de l’Évolution
Adresse : 36 rue Geoffroy Saint-Hilaire, Paris , Franceアクセス : Gare d'Austerlitz / Jussieu
URL : https://www.mnhn.fr/fr/expo-felins
水〜月10h-18h (切符売り場は 17 :00で終了) , 10-13 €