リール美術館には、リール出身の画家でコレクターだったジャン=バティスト・ウィカール(1762-1834)が市に寄贈した、ルネサンス美術の巨匠、ラファエロ(ラファエロ・サンティ 1483-1520)のデッサンが37点ある。光に弱いことから、滅多に展示されてこなかったが、本展で始めて全点が展示された。
これらの所蔵品に加え、ルーヴル美術館、ロンドンのナショナルギャラリー、ペルージャの国立ウンブリア美術館などから貸し出された作品で構成した、ラファエロを満喫できる展覧会だ。展覧会のもう一つの特徴は、紙に残っていた消されたデッサンの跡から、ラファエロがどのように描いたのかを分析し、線の動きをビデオで見せて「ラファエルの描き方を追体験する」ことを可能にした点だ。下絵のデッサンが完成品の油彩画にどのように使われたかも、完成品を復元したデジタル画像で見ることができる。
作品は時系列で展示されている。ウルビーノの宮廷画家の家に生まれたラファエロが、ペルージャの画家ペルジーノの工房に弟子入りした頃のデッサンは、リール美術館の所蔵品。注文記録が残っている最初の作品は、裕福な商人バロンチからサン・タコスチーヌ教会のためにと1500年に注文を受け、その翌年納入した「バロンチの祭壇画」だ。
1789年の地震で大部分が破壊され、残った部分は切り取られて分散したため、全体像は現存していない。しかし、リール美術館にはこの絵の下絵がある。それとは別に、ラファエルの作品を見た画家による模写があることから、リール美術館所蔵のデッサンと合わせて、デジタルで本来の姿を再現した。悪魔と戦う聖ニコラウスを描いたこの作品は別の画家との共作だったが、リールにあるデッサンから、ラファエロが聖ニコラウスの顔と神の姿を描いたことがわかる。下絵に描かれたニコラウスの表情には、既に、ラヴァエロの作風を貫く優雅さと繊細さが現れている。
フィレンツェに移ったラファエロは、同じ時期にこの町にいたレオナルド・ダ・ヴィンチから影響を受けた。本展のキュレーターによれば、ラファエロが描いた若い女性の肖像デッサンはダ・ヴィンチのモナリザを真似たものだという。確かに、顔の形はラファエロのものだが、目鼻の作りとそこから醸し出される雰囲気がモナリザに似ている。
37歳で早逝したラファエロの最終居住地はローマ。ローマ教皇ユリウス2世の招きで訪れ、ヴァチカンの教皇用図書室の壁画を制作した。この、通称「ラヴァエロの間」の中の「署名の間」にある「パルナッスス」と「アテナイの学堂」の下絵も展示されている。完成した「パルナッスス」の画面の真ん中には音楽を奏でるアポロンがいるが、下絵では、アポロンと楽器が別々に描かれている。
1階(rez-de-chaussée)のアトリウムに入ると、360度でラファエロのデッサンの詳細が動画で大きく映し出される。銅筆やペンを持ったラファエロの指先をたどる場所だ。デッサンを見ると、画家の根源に触れたような気がする。ラファエロには、素早いタッチのデッサンにも、体の部分だけを捉えたデッサンにも崇高さがある。ただただ、心が洗われるような展覧会だ(羽)2月17日まで
Palais Beaux-Arts Lille
Adresse : Place de la République , 59000 Lille , FranceTEL : 03 20 06 78 00
アクセス : パリ北駅Paris NordからTGVでLille Frandresまで1時間 Lille Frandres駅から徒歩15分 または地下鉄M1でLille Lille Chu-Eurasante 方面に乗りRépublique Beaux-Artsで下車、徒歩4分
URL : https://pba.lille.fr/
火曜日休館。月:14h-18h 水―日:10h-18h。特別展のみ8€/5€ 。特別展+常設展10€/割引7€ 。 割引料金は土日以外16h30以降、全入館者に適用。