シャンタル・アケルマン「Chantal Akerman Travelling」展
シャンタル・アケルマン(1950 – 2015)がこの世を去り、2025年で早くも10年。この間、代表作『ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り』(1975年)が、2022年に英国映画協会による「史上最高の映画1位」を獲得し、日本でも回顧上映がヒットするなど、世界的にも再評価が目覚ましい。現在、映画史に特異な足跡を残した彼女の展覧会が、パリ・コンコルド広場前のジュ・ド・ポーム美術館で開催中だ。
ゴダールの『気狂いピエロ』で映画に目覚め、18歳でそのオマージュである自作自演の短編『街をぶっ飛ばせ Saute ma ville』(1968)を発表。映画学校を飛び出し、生まれ育ったブリュッセルからニューヨーク、パリへと拠点を移しながら、晩年まで自由な映画作りを続けた。実験的作品からコメディ、ドキュメンタリー、文学作品、ミュージカルまで、短・長編合わせ約40本のフィルモグラフィーは見かけ以上に多彩だ。
90年代からはインスタレーション作品の制作に着手。ヴェネチア・ビエンナーレやドクメンタなどの国際美術展にも積極的に参加し、ミュージアムにおける映像作品の展示の可能性を晩年まで模索し続けた。その動きはアニエス・ヴァルダとも重なる。今回の展示では、そんなアケルマンの現代アート作家としての仕事に、あらためて向き合える貴重な機会を用意した。
展示は半裸の女性が鏡で自分を見る映像『In the Mirror 鏡の中で』(2007年)から。初期の未完成作品『L’enfant aimé, ou Je joue à être une femme mariée 愛される子供、または既婚女性を演じる』(1971年)の抜粋だが、自分の肉体にコメントし他者の視線を内面化する女性の姿は、携帯が世間の視線を取り込みやすい現代とも地続きだろうか。
この作品の向かいには、7台のモニター映像で構成された作品『殺人の後に座る女 Woman Sitting After Killing』(2001年)があるが、こちらは家父長制の檻に閉じ込められた主人公が登場する『ジャンヌ・ディエルマン』のラスト7分の抜粋。まるで二つのインスタレーション作品は、「女性性」を巡って親密な対話を促すように配置されている。
続く展示室では、25台のモニターが闇に浮かぶ。1995年制作のビデオ・インスタレーション『D’Est, au bord de la fiction 東から、フィクションの際で』だ。「ヨーロッパ再統一」をテーマに依頼された作品で、約30年前の初披露も今回の会場ジュ・ド・ポーム国立美術館だったという。東ドイツからポーランド、ウクライナ、ロシアへ旅するカメラが、トラヴェリング(移動撮影)で、駅構内や街路に佇(たたず)む人々を映し出す。アケルマンは「優れたフィクションはドキュメンタリー的、優れたドキュメンタリーはフィクション的」という持論を持っていたが、その証明のような作品で、今回の展覧会タイトルの源泉にもなった本展示のハイライトだ。
奥の部屋では監督作品をほぼ時系列で紹介。アケルマンの魅力が凝縮されたアナーキーな短編悲喜劇『街をぶっ飛ばせ』が常時壁に映写されているので、見たことがない人はこの機にぜひ目撃を。アケルマン財団が提供するのは、脚本、制作ノート、撮影現場の写真、プレスキット、記事の切り抜きなどなど。これまで未公開だった貴重な資料の数々で、各作品の背後にある制作の思考プロセスを丁寧に辿っていく。展覧会の会期は1月19日迄なので、まだの方はお早めに。(瑞)
Jeu de Paume
Adresse : 1 pl. de la Concorde, 75001 Paris , Franceアクセス : Concorde
URL : : https://jeudepaume.org/evenement/exposition-tina-modotti/
月休、火11h-21h、水-日11h-19h 13€/9.50€/7.5€