Arbre de Vie – Joana Vasconselos
ヴァンセンヌ城のゴシック式礼拝堂「サント・シャペル」の真ん中に、パリ生まれのポルトガル人アーティスト、ジョアナ・ヴァスコンセロス(1971-)が高さ13メートルの巨大な「生命の木」を設置した。パッチワーク、刺繍、ビーズ、レース、ラメなどを使い、分解可能なアルミニウムの芯の周りに詰め物や布を巻きつけ、根から葉まで手作りで作った。虫やトカゲが這っているように見える部分もある。赤と黒を基調とした木には、キラキラ光る葉がついている。抽象的でありながら有機的な世界だ。
「聖なる礼拝堂」を意味するサント・シャペルは、王、またはカトリックに列聖されて聖ルイとなったルイ9世の系列に入ることを望む王子が13−16世紀の間に建設した礼拝堂を指す。ヴァンセンヌ城のサント・シャペルは、聖ルイが建てたパリのシテ島にあるサント・シャペルをはじめとするフランスの七大サント・シャペルの一つだ。1379年にシャルル5世が着手し、1552年、アンリ2世の時代に完成した。
ヴァスコンセロスは国際的に有名な造形作家で、2005年にヴェネツィア・ビエンナーレに出品し、2012年にヴェルサイユ宮殿で個展、2018年にはグッゲンハイム美術館ビルバオで回顧展を開くなどしている。
ありふれた日用品を使って巨大な彫刻を作り、消費社会や女性が置かれた状況を考えさせる作品が多い。ヴェネツィアに出品し、ヴェルサイユ宮殿などで主催者側から展示を拒否された作品に、25000個のタンポンで作った豪華なシャンデリア「A Novia(花嫁)」がある。
現代女性が使うタンポンを17世紀の王宮で展示することで、花嫁に処女性が要求された時代や、今でもその伝統が続く国があることなどを考えさせる作品だ。状況は少しずつ変わりつつあるが、当時は月経血を連想させることはショッキングなこととみなされた。作者のフェミニストの視点は、この作品だけでなく、この「生命の木」にも現れている。
「木」のテーマを提案したのは、展覧会のコミッショナーだ。そこからオリーブの木をイメージした。もとになったのは、関係を迫るアポロンから逃れるためオリーブの木に変身した、ギリシャ神話のニンフ、ダフネの伝説である。ヴァスコンセロスはダフネに、神の言いなりにならず、自分の意志で行動する自由な女性を見た。アンリ2世妃のカトリーヌ・ド・メディシスがサント・シャペルの建設を終わらせ、王が亡くなった時に3000本の楡の木をヴァンセンヌ城の領地に植えたという史実も、木を選んだ理由の一つだ。「生命の木」はカトリーヌ・ド・メディシスへのオマージュでもあり、彼女が好んだ赤と黒を基調色にした。
作者のリスボンのアトリエで働く女性たちが、布を縫い、編み物や刺繍をした。11万枚の葉を作り、そのうち7万枚に刺繍を施した。制作に使われたテキスタイルの伝統技術は、主に女性たちが代々引き継いできたもので、サント・シャペルの過去と今とを繋ぐ媒体になっているという。ヴァスコンセロスは、これまで何度も歴史建造物の中で展示し、建物と見る人をつなぐ素材が象徴するものをいつも考えてきた。
礼拝堂のステンドグラスは、新約聖書の「ヨハネの黙示録」の場面を表している。その終末の光景の前に「生命の木」を据えたのは、新しい世界を願う気持ちからだと、作者は言う。黙示録には、「命の木の葉が諸国の民の病を治す」と書かれている。この部分も、ヴァスコンセロスの構想にインスピレーションを与えたのかもしれない。
葉はL E Dの光で輝き、見る人を幻想的な美の世界に誘う。木を這う動物やなめくじのような形も見え、サント・シャペルの歴史とダフネの話を別にすれば、シャーマニズムが生きているアマゾンの熱帯雨林の木にも見える。
見る人の気持ちによってどのようにも見える「生命の木」。階段を登って礼拝堂の上から眺めれば、また違った見方ができるだろう。(羽)
9月3日まで
ARTEでこのアーティストを紹介
https://www.arte.tv/fr/videos/107882-018-A/joana-vasconcelos/
Château de Vincennes
Adresse : 1, avenue de Paris, Vincennes , FranceTEL : 01 48 08 31 20
アクセス : M°Château de Vincennes / RER : Vincennes
URL : https://www.chateau-de-vincennes.fr
10h-18h 入館は閉館の45分前まで。9.5€/18歳未満無料。EU圏在住の18−25歳無料。