Expo “Cancers”
科学産業博物館で「ガン」についての展覧会。病理や最新治療法の紹介のみならず、心のケア、社会的な支援までを含むフランスのガンの医療を見せる。
フランスでは毎年およそ40万人がガンを告知され、3800万人がガンと生きている。確率でいえば男性の5人に1人、女性の6人に1人と高い。必然と、誰かしら身の回りに治療をしている人がいるだろう。
なのに「ガン」はタブーだ。さまざまなガンがあるものの(展示のタイトルもcancers と複数形)生死にかかわる問題だからだ。フランスでも日本でも死因の一位(女性だけの死因トップは心血管疾患だが)の病。多くの場合、突然に病を知らされ、生活のすべてが崩れ落ちるような心持ちになる。
ガン患者は年々増えており、2023年は43万3千人が罹患。コロナでガン検査数が大幅に後退したことによる増加とも言われているが、1990年と比べると倍増(国家公衆衛生庁)だという。
しかし医療は進歩している。10人に4人のガンは検査など、予防をしていれば避けられるものだという。病気、治療法、そのほかのケアについて知ることで、タブーを破るようにするのがねらいの展覧会だ。
展示では、ガンを宣告された時の人のショック、パニック状態、絶望感、周囲に知らせるかどうかの迷い、治療や副作用と並行した社会活動のむずかしさなどについて、20人ほどが語るビデオがある。一見、健康な人でも、闘病しているとそれなりに困難があり、孤独感を抱えていることに、今さらながら気づく。
治っても、職場復帰も容易ではない。ガンを知らされる10人に4人は就労しているが、病気と治療で仕事が困難になったり、生産性が低下したり、心理的にもデリケートになり人間関係がこじれやすくなることもあり、3人に1人の割合でガンにかかった会社員が離職しているという状況だ。ガン罹患から5年後の人々の失業率は9.5%と高くなっている。
フランスでは、ガンは長期治療が必要な費用がかかる病気とされ、治療費は国が全額負担するのが不幸中の幸いだが、それだけではない。
フランス国立がんセンター(INCa)は、患者の精神的ケア、適度なエクササイズのアドバイス、食事と栄養面の相談、性機能のトラブル相談、患者だけでなく近親者の精神的ケア…と、病気によって影響がおよぶ分野に関しても広く手を差し出すがん治療を行う。
身体の病気そのもの治療だけではなく、患者という「人」を社会がとり囲み、多方面から支える態勢を組むのが、フランスのガン治療だとわかる。もちろんこれは、医療の世界の意思だけではなく、社会的、政治的な意志がなかったらあり得ないだろう。
最先端の研究に携わる人々が、それぞれの分野の「今」を語るビデオも興味深い。ケアをする側の証言もある。ソルボンヌ大学では、快復した患者が現役患者のアドバイザーになれるよう勉強する学部が設けられているというが、経験者のアドバイスとあれば患者にとっては心強いに違いない。
フランスでも、労働環境の悪化により医療現場を去る人が絶えないとニュースなどで聞く。すばらしいがんの治療体制をぜひ継続させてほしいと願う。9/17迄
フランス語のほか英・西語で説明あり。
Cité des Sciences et de l'Industrie
Adresse : 30 av.Corentin Cariou, 75019 Parisアクセス : M°Porte de la Villette
URL : https://www.cite-sciences.fr