フランス北端の都市ダンケルクは冬のカーニバルで有名だ。1月から3月までダンケルクとその周辺の町で次々と祭が開かれる。かつてアイスランドまで6ヵ月間のタラ漁に出る漁師たちが陸を離れる前に宴をしたのが起源だというが、荒海での漁は死と隣り合わせだったというから、最後になるかもしれない祭には全身全霊で臨んだに違いない。ここでは結婚の契約に、祭りの期間中は好きなことをやっていいという「カーニバル条項」が記されるという伝説もある。
そのカーニバルが最高潮を迎えるのがこの2月。ダンケルクと、ふたつの隣接した地区で祭が続く 「楽しき3日間」には、休暇をとって専念する人たちもいるほどだ。今回は近くの村の小規模カーニバルを体験し、”本番”に備えることにした。
20世紀初頭、海水浴ブームにのって開かれたマロ=レ=バンの砂浜とエレガントな遊歩道、そこが舞台になった第二次大戦中の 「ダイナモ作戦」に関する博物館も必見だ。19世紀の巨大な砂糖倉庫が市民の文化活動の場として甦えった 「アール・オ・シュークル」、造船所を改築したアートセンターに行けば、フランス第3の商業港の歴史の厚みと、今日の町の鼓動が感じられるだろう。(六)
● パリからの行き方:
パリ北駅から直通または乗換えでダンケルクまで2〜3時間。
駅から町の中心までは徒歩10分ほど。
バスC1、C3、C6などでも中心街に行ける。
ビーチまでは駅からバスC3。徒歩だと30分ほど。
市営バスは通常時も無料 www.dkbus.com
観光局:www.dunkerque-tourisme.fr
2月と3月の主なカーナバル関係イベントはこちらのページ
カーニバルの季節がやってきた。
今年のダンケルクのカーニバルは1月6日にスタートした。でも本格的に人々の心に火が点くのは「黒猫のバル」で、そこからカーニバルシーズンが盛り上がるといわれる。今年は1月16日だった。
これはマロ=レ=バンの砂浜に近い大ホールKursaalに8千~1万人が集まる大きな宴だが、地元の商店で売られるチケットはすぐ完売になり入手は難しい。会場近くで avant-balというパーティーがあるというので行ってみると、夕方まで人がまばらだった海辺の遊歩道のバーやレストランがディスコと化し、仮装した人たちがガンガン踊っている(入場無料。ドリンク有料)。猫、うさぎ、ドラッグクイーン、漁師、テーマ不明だが笑いをさそう仮装の人々…。毎年こんなふうに仮装する人たちにはコスプレなどお手のものだろう。近くの広場にはフリットのトラックが5台ほど出動し客を待機。砂浜では飲み過ぎか具合の悪そうな人が仲間に介抱されていたりする。
3月まで、この会場ではバルが定期的に行われ、ダンケルク市内の各地区や、都市圏の町や村でも「バル」や「バンド」と呼ばれる行進が行われる。人々は今週末はどこどこの町、来週はどこどこと、祭りのある先々へと出かけては祭に参加する(市が無料で臨時バスを運行)。2月11日はダンケルク市街での祭。翌日12日は大学や港湾博物間があるシタデル地区で。その翌日はローゼンダール地区(どちらも徒歩圏内)。これが、「楽しき3日間」 。ホテルはとっくの昔に満室だが、夜を徹して祭りに興じて、朝の電車でパリに戻る覚悟ならダンケルクのカーニバルを体験できるかもしれない。
ダンケルクはパリから見れば北のはずれにあり、距離的にパリよりもブリュッセルやロンドンのほうが近い。アムステルダムはパリとほぼ同じ距離にある。海辺を10km行けばベルギーとの国境だ。
「私たちはフランス人である前にダンケルク人。ここはフランドルだよ」と、カーニバルで知り合った人が言っていた。北海に面したこの要衝の町は長い間フランドル領だったが、スペイン領、イギリス領などの時代もあり、フランスになったのは1662年のこと。ずっと海のほうを向いてきたダンケルクの人々にとっての「中心」は、パリではない感じがした。
町や港を破壊される度に再建してきた不屈の精神、逆境をくつがえし目的を達成する 「ダンケルク・スピリット」。堅強なイメージと、カーニバルに情熱をそそぎ、はしゃぐ姿に、ハレとケのギャップが鮮やかな町だと感じた。
2月11日の見どころ。
◀︎ダンケルク市庁舎周辺
19世紀末に建てられたダンケルク市庁舎。このバルコニーから市長が広場に集まった人々に向けてニシンを投げるjet de harengsは、カーニバルの目玉。昨年選出されたミス・フランスのエヴ・ジルさんはダンケルク出身で、今年は市長とともにニシン投げをする。ちなみにこの市庁舎と、Beffroiといわれる北フランスに多い鐘楼(1440年築)は、ユネスコ世界遺産に登録されている(鐘楼一階に観光局)。
◀ ジャン・バール、ダンケルクの英雄。
ダンケルクでは、町の至るところにジャン・バール(1650-1702)がいる。ルイ14世の私掠船の船長で、敵国オランダからフランスを守った英雄だ。カーニバルの仮装もジャン・バールは定番で、また多くの人がこの英雄のワッペンをつけている。町の中心の広場にも銅像がありカーニバルの終わりは、「ジャン・バールのカンタータ」を皆で歌いながら銅像の周りを回り、最後はひざまづいて敬礼!今年がカーニバル56回目という人も、「何回やってもこの時が最高に感動的、涙がでるよ」。
ダンケルクに行くなら。
マロ=レ=バンの浜辺の遊歩道
ダンケルクに来たなら、この遊歩道へ。第二次世界大戦のダイナモ作戦の (右ページ参照)舞台となった浜辺だ。今でもベルギー方向に歩くと鉄筋コンクリートの砲台や司令塔などがある。船のような建物は、高級ホテルRadisson。
ビール、フリット、フリカデル
■ Chic Frite :
6 Rue Jean Jaurès
火休、11h30-14h (日-14h30)/ 18h30 – 22h30 (金土日-23h)
フランス第3の商業港ダンケルクおすすめ
ダンケルク海洋港湾博物館
ルイ14世が1662年イギリスからダンケルクを買い取ってダンケルクはフランスの一部になった。フランス全国に要塞を築城したヴォーバンが要塞を造り、北海の一大軍事拠点となるが、スペイン継承戦争を終結させたユトレヒト条約 (1713)で和平のしるしとして破壊することに。しかしその後、ダンケルクは商業港として発展してゆき、今日では長さ17kmにおよぶ。煙草倉庫だったエレガントな博物館前には、帆船、灯船も見学可能(博物間でチケット購入)。商船員の訓練船 「Duchesse Anne」号は修理中。
● Musée maritime & portuaire de Dunkerque :
9 quai de la Citadelle
火休、10h-12h30/13h30-18h
8.50€/6.50€/7歳未満無料。
https://museemaritimeportuaire.com
フランス最北端リスバン灯台に登ってみよう。
1843年に造られたリスバン灯台は高さ63m。港湾博物館から人もまばらな日曜の産業ゾーンを20分ほど歩かないといけないが、せっかく。屋上に出られというので階段276段はなんとか登ったが、あまりの高さと強風と、灯台の細長い形状と相まって軽いパニック状態になり、急いで階段を降りた。
● Phare du Risban :
Route de l’écluse Trystram
日曜のみ、10h-12h30。
6€/4.50€/家族料金16€。
Tél : 03 2863 3339
museemaritimeportuaire.com
港の産業遺産を生かした建築。
造船所跡でアートと建築をたのしむ
Frac Grand Large – Hauts-de-France
コンテンポラリー・アートは見てもよくわからない、という人でも (私がその筆頭だが)、造船所を、プリツカー賞建築家ラカトン&ヴァッサルが改築したこの建物は必見だ。港にそびえる大きなアートセンターは床面積1万1千㎡以上。最上階からは、足元にヨットハーバーや、防波堤、港の西側にひろがる工業地帯のシルエットまでダンケルクらしい眺めが広がる。壁が半透明なので、海の上空を浮遊するようだ。徒歩5分にあるダンケルク現代美術と活動の場 「LAAK」もあるからアート好きも満足できるだろう。
● Frac Grand Large – Hauts-de-France :
503 av. des Bancs de Flandres
Tél : 03.7406.0281
月火休、水-日 : 14h-18h。
2/16まで次の展覧会準備で閉館。17日のヴェルニサージュは一般も入場可。
行き方)
バスC4番でFRAC/LAACまたはBordées下車。
C3ならDunkerque Malo Plage下車。
8€/4€ (LAAKにも入場可)18歳未満無料。
www.fracgrandlarge-hdf.fr
19世紀の砂糖倉庫は、市民が環境を考える場
La Halle aux sucres
19世紀、ビーツから造られる砂糖はフランスの重要な輸出品になった。生産地に近いダンケルク港は輸出の拠点で国は1897年、巨大な倉庫建造に着手。当時は2棟あったという倉庫の規模から港の重要性を推しはかることができる。
ジャン=ルイ・ファローシによる改築は、19世紀のレンガ造りのファサードをそのままに、その中にすっぽりと新しい建物を造ったもの。スロープを登りつめると入口にたどり着くが、その地点で港の展望が開けるのも感動的だ。建物内では、コンサート、クリスマスマーケットなどのイベント空間や、市の建築オフィスや市民図書館もある。展示スペースは市民が環境について学び考える場。子どもが屋内でも動き回ったり、座って絵本を読めるコーナーも多数。
5F屋上テラスに出れば、360°ダンケルク大学が眺められる。(テラス無料)。この先、カフェ・レストランもオープン予定。
● La Halle aux sucres:
9003 Route du quai Freycinet 3
Tél : 03 2864 6049
月休。 火〜日13h-18h。 入場無料。バス16番が10分に1本発着。
www.halleauxsucres.fr
「ダイナモ作戦」の記憶。
ダンケルク1940年博物館
Musée Dunkerque 1940 Opération Dynamo
クリストファー・ノーラン監督の映画 「ダンケルク」で、再び脚光を浴びるようになった「ダイナモ作戦」。第二次世界大戦初期、ダンケルクで独軍に包囲された英仏の兵士34万人を英国の海・空軍と民間の漁船、貨物船、ヨットなどが救出した作戦だ。
このミュージアムでは、ノーランが映画で描かなかった戦禍のダンケルクの町や人、浜に設けられた大きな野戦病院などについても解説されている。今の、平和そのものの今日のマロ=レ=バンの浜辺と当時の様子が対照的で、平和の尊さをひしと感じる。
● Musée Dunkerque 1940 Opération Dynamo :
Courtines du Bastion, 32-rue des Chantiers de France
Tél:03.7406.0281 毎日10h-18h (2/10まで冬季休館)。
8€/5€/ペア割引15€/12歳未満無料。
バスC3番でFenelon下車、徒歩3分。
www.dynamo-dunkerque.com
ダイナモ作戦に参加した船で食事を
Princess Elisabeth Restaurant
ダイナモ作戦には 「リトル・シップス」と呼ばれる英仏蘭ベルギーの小型船も1500叟ほど参加し、浜で兵士たちを乗せ、沖の大船へと渡した。「プリンセス・エリザベス」号も、ダイナモ作戦に参加し1700人の兵士(うち500人は仏兵)をイギリスへ救出。今はレストランになっていて郷土料理に一工夫こらした料理が食べられる。平日なら昼も夜も前菜+主菜で26€。
● Princess Elisabeth Restaurant
Quai de l’Estacade
Tél : 07.8263.9909
月 – 木 : 12h-15h/19h-23h. 金土:12h-15h /19h-0h、日 : 12h-16h (夜休)
www.princesselizabeth.eu