かつてブルボン公領の中心都市として栄えたオーヴェルニュ地方の城下町ムーラン。ここにCNCSこと「 Centre National du Costume et de la Scène 国立舞台衣装と舞台装置センター」がある。この町と舞台衣装との直接の関係はない。しかし、メッスのポンピドゥー・センター別館などと同様に、文化の地方分散化計画の一貫として、2006年に世界唯一の国立の舞台衣装専門ミュゼとして誕生したものだ。
もともとの名は「 Centre National du Costume de Scène 国立舞台衣装センター」。今とほぼ同じ名だが、よく見ると微妙に違う。これまで「舞台衣装」のみに特化したミュゼだったが、この2023年4月から「舞台装置」に関する展示施設を新設。それに合わせて名前も変更となった。
新しい展示施設の名は「La Scène(ラ・セーヌ)舞台」。CNCSの建物はかつて兵舎だったが、ラ・セーヌは400m2の厩舎スペースを活用。CNCSディレクターのデルフィーヌ・ピナサ氏によると、舞台装置の保管は衣装よりもさらに困難を極めるため、制作の裏側を展示で紹介することに。「舞台装置のコンセプト」「舞台装置の制作」「スペクタクルの上演」の3段階で見せてゆく。
舞台装置の参考例として大きく取り上げるのが、エドモン・ロスタン作の「シラノ・ド・ベルジュラック」。初演は1897年パリのポルト・サン=マルタン座だった。当時の舞台装置は残っていないため、私たちが見られるのは2006年のコメディ・フランセーズ版である。演出はCF正座員ドゥニ・ポダリデス、舞台美術はやはりCF正座員で演出も手がけるエリック・リュフ。演劇賞のモリエール賞で演出、衣装、舞台装置ほか6つの部門で受賞。この名舞台がどんな舞台美術で制作されたのかを、デッサンや写真、絵コンテ、模型、彫刻、小道具、大道具の数々を駆使して具体的に紹介。夢の舞台裏をのぞくような心踊る空間で、美術の裏方スタッフの仕事にも敬意を表す場所となった。
ミュゼの目玉はやはり舞台衣装。コレクションは主にコメディ・フランセーズ、オペラ座、BNF(国立フランス図書館)から託され、現在は約1万点。なかには18世紀の古い衣装や、パブロ・ピカソがデザインしたお宝作品も。それらは文化遺産として後世に引き継ぐため、温度や湿度を厳重管理し保管されている。この保管ルームは、残念ながら一般公開されていない。
その代わり、じっくりと衣装を鑑賞できる常設展と企画展を用意。常設展は「コレクション・ヌレエフ」。ソ連出身の天才ダンサー、ルドルフ・ヌレイエフ本人の遺言で実現した衣装を含む所持品の展示スペースだ。貴重な衣装や小物はもちろん、パリの自宅のサロンや棺の再現もあり、ファンには垂涎ものだろう。一方、年2回の企画展は舞台芸術を衣装を介して紹介。
4月30日までは先鋭的なコンテンポラリーダンス集団 (LA) HORDEが指揮するマルセイユ国際バレエ団の衣装展「Danser l’image」が開催されている。
CNCSの建物は18世紀建立の元騎兵隊の兵舎で、長らく兵器の保管場所だった。そして時は流れ、今は舞台衣装の終の住処となっている。戦いから芸術の場所へ、その象徴的かつポジティブな変化を嬉しく思う。(瑞)
★ オヴニーN°941はムーラン特集。あわせてご覧ください。
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Centre National du Costume et de la Scène
Adresse : Quartier Villars - Route de Montilly , Moulins , FranceTEL : 04.7020.7620
アクセス : パリ・ベルシー駅からMoulins-sur-Allier 駅まで列車で2時間半。 Moulins-sur-Allier 駅からミュゼまで徒歩20分。
URL : cncs.fr
1/1、5/1、12/25以外は毎日開館。 開館時間は季節により変わるので公式サイトで確認を。 入館 7€/4€。