映画監督の独立精神や才能を奨励するジャン・ヴィゴ賞。1951年の創立以降、ゴダール、ピアラ、ガレル、近年はアルベール・セラやマチュー・アマルリックらが受賞してきた。2021年は10月に授賞式が催され、アレクシ・ラポールの『Petite Solange』が受賞。本作は8月のロカルノ映画祭でコンペティション部門に選出されたが、劇場公開はコロナ禍で延期、ようやくこの2月に一般の映画ファンの目に触れることになった。
タイトルの『Petite Solange』は直訳すれば「小さなソランジュ」。まるで「プチ・ニコラ」のようなタイトルだが、本当にチビなニコラ少年とは異なり、ソランジュは13歳。つまり、大人時代に半分足を突っ込みかけている。
フランス西部のナントが舞台。ソランジュは楽器店を営む父(フィリップ・カトリーヌ)、舞台俳優の母(レア・ドリュッケール)、年の離れた学生の兄と4人住まい。映画は両親の結婚20周年を祝うパーティで幕を開ける。幸せそうな一家。しかし、すぐに思春期の心は家族の不協和音を感じ取る。
レストランや自宅、学校、カフェ、父の楽器店。登場する舞台装置はいたって平凡だが、ワンシークエンスで関係性を如実に浮かび上がらせる演出に引き込まれる。徐々にドラマに暗雲が立ち込めるなか、頼りの兄もスペインへ留学。当たり前に続くと信じた日常は、静かに、確実にヒビが入ってゆく。
本作には学校でソランジュが親友とグレタ・トゥーンベリについてのエクスポゼ(発表)をするシーンが挿入される。2021年のカンヌ映画祭にて、「環境のための映画」部門で上映されたルイ・ガレルの新作『La
Croisade』のように、グレタ世代の若者のポートレイトでもあるだろう。現代においては「無責任で能天気過ぎるのが大人」、「繊細で真面目過ぎるのが子供」と言えそうだ。
監督のアクセル・ロペールは本作で長編4作目。「レザンロキュプティブル」などで映画評論家として活躍後、『ウォルベルグ一家』『パリ、恋の診療室』の監督作や、セルジュ・ボゾン作品の共同脚本家の仕事で高い評価を受ける。
ナントといえば、フランス映画好きにはジャック・ドゥミゆかりの地として名高い。だが、ロペールが今回意識したのは、身近でシンプルな題材から豊かなドラマを紡ぎ出したトリュフォーの『大人は判ってくれない』だったという。本作はあくまで思春期目線で眺めた家族崩壊のシンプルなドラマ。しかし監督は、「映画のプロジェクトのシンプルさを侮るべきではない。シンプルさは深さがないということではないのだ」と語る。そして、このシンプルな題材から豊かなドラマを誕生させるという勇敢な試みは、本作において完全に成功しているのだ。(瑞)