
来月のカンヌ国際映画祭(5月13日〜24日)の開催を控え、4月10日にパリのシネコンUGCモンパルナスで公式セレクションの発表会見が開かれた。今年から会場は右岸のシャンゼリゼ通りから、左岸のモンパルナス界隈にお引越し。会見に立ったのは、今年で3年目のコンビとなる元ワーナー・フランス代表のドイツ人イリス・ノブロック会長とティエリー・フレモー総代表だ。
ちょうど昨日、フランスでは映画やオーディオビジュアルなどの芸術分野の性暴力に関する調査委員会の報告書が国民議会で発表され、ニュースとなったばかり。これは俳優のジュディット・ゴドレーシュの要請で立ち上がった委員会だが、文化セクターの性暴力は「組織的・蔓延的・継続的」であると結論づけた厳しいものだった。この翌日の会見となったカンヌは、ノブロック会長が調査委員会の勧告に対し、「真剣にしっかりと受け止めた」と意見を表明した。
発表されたコンペティション作品は全部で19本。世界三大映画祭の最高賞受賞経験者は、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟、ジュリア・デュクルノー、ジャファール・パナヒ、カルラ・シモンの1組(2人)と3人。
注目度の高い作品は、ゴダールの『勝手にしやがれ』の撮影裏を描くリチャード・リンクレイターの『NOUVELLE VAGUE』、現在パリのシネマテークで回顧展が開催中のウェス・アンダーソン『THE PHOENICIAN SCHEME』、前作『わたしは最悪。』で一流映画人の仲間入りを果たしたヨアキム・トリアーの『SENTIMENTAL VALUE』、米インディペンデントの星であるケリー・ライカートの『THE MASTERMIND』、『ミッドサマー』の衝撃が忘れられないアリー・アスターの『EDDINGTON 』などか。

中国と韓国の監督の名前が見当たらない中、コンペに颯爽と食い込んでみせたのが、早川千絵監督の『ルノワール』。これまで早川監督はカンヌ・シネフォンダシオン部門で短編が入選を果たし、長編第1作の『PLAN 75』はカメラドール(新人監督賞)スペシャルメンションを受けている。カンヌが大きな期待をかけ、大事に育てている日本人監督と言えよう。
先のセザール賞では俳優賞を受賞し、監督と俳優業を完璧に両立させるアフシア・エルジの3作目の長編作品『LA PETITE DERNIÈRE』も気になるところ。今回、コンペの19本中、女性監督作品は6本選ばれた。また、フランス映画応援団としては、ドミニク・モルの『DOSSIER 137』にも声援を送りたい。前作『12日の殺人』が2022年度を代表するフランス映画の一本になったにも関わらず、カンヌはプレミア部門に追いやってしまったのを反省してか、今回モル監督をしっかりコンペで迎える。
全体的にコンペの布陣は比較的若々しく、昨年と比べ重量感のある巨匠が少なめに見える。世代交代は嬉しいが、同時に、60代以上の伝説のベテラン勢もまだまだ頑張ってほしい。かくも映画ファンはわがままなのだ。
日本勢に関しては、「ある視点」部門に出品した『ある男』が好評だった石川慶監督がカズオ・イシグロ原作の『遠い山なみの光』で選出。また、ミッドナイト上映には、川村元気監督が主演に二宮和也を迎えたホラーサスペンスの『8番出口』が参加する。今後は公式セレクションの追加や、監督週間などの並行部門の発表もあるので、まだまだ期待したい。
個人的に気になったのは、「ある視点」部門に登場したハリス・ディキンソンの『URCHIN』。ディキンソンといえば、『逆転のトライアングル』や『ベイビーガール』の出演で強烈な印象を残した若手俳優だが、その発言や演技力などから監督業にも期待ができそうだ。

今年の審査委員長はジュリエット・ビノシュ。昨年のグレタ・ガーウィグから2年連続で女性の審査委員長の就任となった。開幕作品は、フランス人女性監督アメリー・ボナンの初長編作品『PARTIR UN JOUR』に。初長編がいきなり開幕を飾るのは珍しい。こちらの元となった短編は、2023年のセザール賞にてすでに受賞済み。現在、アルテ局のサイトから鑑賞ができるので、予習がてらにどうぞ。(瑞)

★短編版 PARTIR UN JOUR (2025年5月8日迄)の視聴はこちらから。
★公式セレクションリストはこちらからご覧いただけます。
