カレー市の「レースとモード館」が開館10周年を迎えた。ルネサンス期の王侯貴族の装束、ウェディングドレス、ランジェリーなどのイメージが先行するレースだが、ここではモードにとどまらない。レースの起源から、産業革命を経てカレーの町がレース生産の一大拠点となるまでの〈レース文化史〉を一望できる場となっている。
カレー市のレース館は、かつてレース工場が集まっていたサン・ピエール地区にある。1870年代築、4階建てのレース工場跡を再活用したミュージアムだ。1900年頃は80機の織機がここで稼動していた。当時は蒸気機関・照明・暖房が備えられた「共同工場」。レース会社は機械と共に入居し、蒸気機関は他社と共用、光熱費も分担するというものだった。2000年頃に操業は停止され、市が買い取り、10年前、ミュージアムとしてオープンした。
フランス北部では昔から麻の生産が盛んで、カレーでも麻糸でレースが作られてはいたがこの町がレース産地として名を馳せるのは19世紀のこと。フランスより一足先に産業革命が始まった英国では、1784年には蒸気駆動の織機、1809年にはレース織機、そして今もカレーで使われ続けるリバーレース機が1813年に開発されるなど急速な発展を遂げていた。
そんな繁栄を極める英国から技術者がカレーにやって来た。フランスの市場保護などで英国製チュールが売れないため、機械レース産業の中心ノッティンガムから新天地を求めてドーバー海峡を渡ってきたのだ。
彼らは織機と綿糸を英国から密輸し製造を始める。リヨンの発明家ジョゼフ=マリー・ジャカールが、複雑な模様が織れるジャカード機をレースに応用できるようにすると、カレーはレース生産の黄金時代を迎えるのだ。
ミュージアムには、16世紀からヴェネチアで作られるようになったニードルレース、フランドルのボビンレースなど究極の工芸品から、繊細なレースのイメージとは正反対の、産業革命の権化のようなどっしりとしたリバーレース織機が並び、定時にそれを動かしてくれる。1台の織機に1万本を超える糸を設置してレースを仕上げるまでの工程を追えるほか、展示室で地元企業のレース見本を見たり、レースをあしらった秀逸のコスチューム展示室も見られる。館内カフェで昼食(9.5€)を取れるので休憩をはさんでじっくり見学を。海辺(Calais Plage)、カレー美術館…、日帰りも可能だけれど、できれば1泊して、ゆったりと散策したい。(六)
INFORMATIONS
【パリからの行き方】北駅Gare du NordからCalais Ville駅まで電車で2~3時間。駅からは徒歩で10分ほど。カレーには市街地に近いCalais-Ville駅と離れたCalais-Fréthun駅(TGVが停車)があるので注意。2駅はIntercité電車で2駅、10分ほどの距離。
◎Cité de la dentelle et de la mode :
135 quai du Commerce 62100 Calais
Tél : 03.2100.4230 www.cite-dentelle.fr
火休。10h – 18h (11/1~3/31までは10h-17h)、 7/5€。
• 織機デモンストレーションは12h-15h-16h
(5月〜10月は17hも)。土日は11h、14hも。
• 月に1回、ボビンとニードルレース講座。次は11/7、12/5。
詳細はサイトのPROGRAMMEページ参照。
◎Olivier Theyskens ”In praesentia”展
2020年1月5日まで。
Cité de la dentelle et de la mode
Adresse : 135 quai du Commerce, 62100 Calais , FranceTEL : 03.2100.4230
URL : www.cite-dentelle.fr
火休。10h - 18h (11/1~3/31までは10h-17h)、 7/5€。