先のベルリン映画祭で、コンペティション部門唯一のアフリカ映画にして、次席に当たる審査員グランプリ受賞作。セネガル人の父、フランス人の母を持つアラン・ゴミス監督が撮影の地に選んだのは、大統領選に絡み混乱が続くコンゴ民主共和国。
会見で監督も「大変な一年だった」と撮影の苦労をにじませた。
首都キンシャサ。バーの歌姫フェリシテ(ヴェロ ・ チャンダ ・ ベヤ)は、愛息がバイク事故に遭う。緊急の手術が必要となり、病院やマルシェ、バーや雑踏をさまよいながら、一縷(いちる)の望みを胸に金策に奔走する。子を救うために親が奔走する映画といえば、ヴァレリー・ドンゼッリの『わたしたちの宣戦布告』を思い出すが、こちらの「戦士」はシングルマザーのフェリシテ、ただひとり。「彼女は一人で戦うのを好む女性。少し謎めいた人で、他人を当てにすることに慣れていない」(チャンダ・ベヤ)。
前半は貧困や裏切りに苦しむ彼女の「戦い」が描かれる。だが中盤からは仲間となる「戦士」を得て、愛の物語にも発展していく。監督は言う。「映画は社会問題も映すが、人が何かをともに築き上げられることを見せる前向きな物語」。
観客の心にまっすぐに飛び込むフェリシテの歌声、音楽ユニット「カサイ ・ オールスターズ」や地元オーケストラ団の演奏と、「音楽」は映画を代弁するもう一人の主人公。 「キンシャサは音楽の興味から選んだ。コンゴ音楽は困難に立ち向かう民衆の声そのもの」(監督)。
晴れて会見に臨んだ3人の主要キャストだが、ベルリン入りする前日にようやくビザがおりたとか。「みなトランプの話ばかりするけれど、欧州にも以前からトランプはいる」。監督の言葉が重く響いた。(瑞)