●ChouChou メルザック・アルアーシュといえば、アルジェの若者を描いた『Bab El-Oued City』(1994)の、鋭くて硬く乾いた映像が強く印象に残っている。ところが『Salut cousin!』(1996)で大いに失望し、この新作には期待薄だった。それが、アルジェリアから密入国してきたニューハーフ、シュシューを中心に展開する現代版御伽噺は予想以上に面白く、馬鹿馬鹿しくてキッチュな部分まで許せてしまうほど楽しいコメディーに仕上がっていた。喜劇役者G・エルマレ(脚本も)演じるシュシューの人柄、いい脇役陣(A・シャバ、C・ブラッサー、R・ゼムなど)…なにより「愛は国境と身分の差とセックスを越える」という単純な発想が全体に温かな調和を与えているような気がする。(海) |
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●The Hours ヴァージニア・ウルフが小説『ダロウエイ夫人』を生み出すまでの苦悩、そして後の時代にこの小説を読む読者の悩み、ダロウエイ夫人というあだ名の現代女性が直面する問題。N・キッドマン、J・ムーア、M・ストリープという3人の女優が各時代のヒロインを演じる。いちばん難しいのは1950年代の主婦を演じるムーアの役どころだろう。自分の同性愛嗜好に気がついた時、主婦が見せる弱々しい微笑みには、彼女の心の動揺が見てとれる。ムーアはこんな微妙な演技にも肩に力を入れず自然体でいられる不思議な女優。ベルリンで三人一緒にもらった銀熊賞もキッドマンが獲ったアカデミー賞も、ムーア一人にあげてもよかった。それにしても最後にため息が洩れるほど、三人の運命も作品も重苦しい。前作『リトル・ダンサー』のように軽い跳躍が少しでもあれば…ねえ、ダルドリー監督。(海) |
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●Quand tu descendras du ciel 短編で多くの賞を獲得してきたエリック・ギラド長編第一作。ニースで実際に行われた路上生活者一掃作戦に対する監督の憤りから映画化の企画が出発。仏映画界に脈々と連なる社会派監督の系譜に有望株が加わった。タイトルは、クリスマスが近づくとフランス人が大合唱する『Petit Papa Noel』から。可愛らしい題だが甘くみてるとしっぺ返しが待っている。「僕はいつも不思議さ、暗さ、美しさ残酷さの驚くべき混合がある童話が好きだった」という監督。絵本やアニメになると途端に良い子の夢物語になりがちだが、本来の童話はしばしば容赦なき描写(手足がバサバサ切られるグリム童話の陰惨さよ!)や、想像力のスパルタ教育ともいうべき唐突な筆運びで驚かされる。だからこそ感傷に溺れていては近づけぬ美しい世の不思議という領域に入り込めるものだが、本作は現代を舞台にしながらも、そんな本来の童話世界への優しい目配せがあるかのようだ。(瑞) |
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