Pied d’éléphante au braise
前回、このページでアレクサンドル・デュマの『Mon Dictionnaire de cuisine』を紹介し、ゾウ料理の出だしを引用したら、読者の方からさっそく「どんな風にできあがるのか興味しんしん。次回のレシピ欄でぜひ翻訳してほしい」という
Eメールが届いた。新年だし、いにしえの豪快な料理に夢を馳せてみよう。ただし、ヴァンセンヌ動物園に忍び込んで、ゾウを連れ出したりしてはいけません!
デュマは、「現在ゾウを食べるのは、コシャンシーヌ(ベトナムの一部)だけだが、デリケートな味わいの食材として大切にされている」とことわり、ロスチャイルド家のシェフ、デュグレレーズ氏のレシピを記している。大金融財閥が、数百人もの客を招いてのパーティーに「植民地の珍味」とうたって出した料理だったのだろう。
「若いゾウの足1、2本を用意する。ぬるま湯に4時間ひたした後、皮と骨をはずす。タテに四つに切り分け、さらに二つに切る。それを15分湯がいたら冷水にとり、ふきんにつつんで水気を切っておく。
きちんと密閉できるブレゼ用の鍋(ゾウの足2本が入る巨大なものが必要だ!)の底に、バイヨンヌ産の生ハム2枚を敷き、その上にゾウの肉を置く。さらにタマネギ4個、ニンニクひと玉、インド産のスパイス数種類、マデール酒半瓶、極上のブイヨン大さじ3杯を加える。
鍋にしっかりとフタをし、弱火で10時間煮る。煮上がったら、煮汁をこして余分の脂をとりのぞき、ポルトー酒をグラス1杯加える。あらかじめ大量のお湯でぐらぐらと湯がいておいた緑色の小さな唐辛子も50本(!)加える。ソースをかなり辛くし、うま味を引き立てることが肝心だ」
デュマは「インド人は、ゾウの足を大きな葉っぱでしっかりとくるみ、熱い灰をかぶせて焼くだけだが、これもごちそうとみなされている」と書き足している。
ゾウは無理だが、牛のスネ肉giteで代用し、調理時間やそれぞれの材料の量を減らしたりして試してみようかな。(真)
アンディーブのブレゼ
冬のビタミン源として貴重なアンディーブ。サラダだけでなく、ゆでてからハムで巻き、ベシャメルソースをかけてグラタンにする一品も冬ならでは。アンディーブのブレゼは、ローストポークや子牛肉のソテーなどに添えてみたい。アンディーブ1キロは、さっと洗ってよく水気を切り、苦みの強い芯を切り出し、大きめに切り分ける。ココットあるいはフタができるソトゥーズを中火にかけ、バター大さじ3杯を加え、これが溶けたらアンディーブを加える。1分ほど混ぜ合わせながら炒め、塩、コショウ。砂糖も二つまみ加え、レモン半個分の搾り汁を振りかけ、水をカップ1杯注ぎ、フタをする。時々かき混ぜながら15分も煮ていけばでき上がりだ。柔らかくても歯ごたえがあるように仕上げたい。水気がたくさん残っていたら、強火にして飛ばします。(真)
●jambon cuit, jambon cru
豚のモモ肉を使ったハムには、しばらく塩漬けにしてから煮上げたjambon cuit(火を通したハム)と、塩、コショウ、その他のスパイスなどを繰り返しこすりつけながら乾燥させたり、いぶしたりするjambon cru(生ハム)の2種類がある。jambon cuitの中でいちばん知られているのはjambon de Paris。ヨーク風jambon d’Yorkといわれる骨付きのものは極上品で、肉屋さんで注文すると、ハム台に据えられた塊を、ハム専用の細長い包丁で薄切りにしてくれる。パリ風よりかなり値が張る。
jambon cruの代表選手は、今回のレシピにも登場したjambon de Bayonne(バイヨンヌはバスク地方の都市)。デュマが生きていた当時は本場ものだったに違いないが、現在は、赤ラベルのものをのぞいてはフランス各地で作られている。薄く切ってそのままをアペリチフに添えたり、前菜にしたり、薄塩のものならメロンに添えたり、あるいはさいの目に切ってオムレツに入れてもうまい。バスク地方の赤ピーマン煮込み〈ピプラード〉に薄切りをのせて、オーブンでカリッとさせると絶品。この生ハムが入る料理は à la bayonnaiseあるいはà la basquaiseと呼ばれることが多い。
●braiser
braiserというのは蒸し煮のこと。きちんとフタができる鍋で、ワインやダシなど少量の液体を加え、弱火で時間をかけて煮込んでいく。固めの肉、大きめの鳥類、アンコウやコイのように身の締まった魚、キャベツやアンディーブなどの野菜がブレゼされる。une braisiereは、凹形になったフタの上にも炭火をのせ、上下から加熱できるようになっていたブレゼ用の鍋のことだが、最近は見かけなくなった。フタの重いココットなどで代用します。