この連載の24回目で食前酒 apéritif(apéroとも略される)について書いたけれど、おつまみにamuse-boucheついて書くのを忘れてしまったようだ。それも少しは気がきいたものを用意すれば、ますます楽しいひとときになるだろう。
おつまみには、フォークやナイフ、皿などもいらない、手でつまんだり、あるいはようじで刺して口に入れたりできるものがいい。
おつまみの代表選手といえるのがチップス、ナッツ、オリーブで、小皿にとって出す。チップスは、目先を変えて根菜ミックスのチップスchips de légumesにするのもわるくない。ピーナッツやアーモンドなどのナッツ類は、あらかじめ弱火で軽くいためておけば、カリッとした歯ごたえになってうまみもます。オリーブには香りがよくなるように、エルブ・ド・プロヴァンス(乾燥されたタイムやローズマリー、オレガノなどのミックス粉末)を振りかけるといいだろう。
生ハムやコッパ、ソシソンといった豚肉の加工品が加われば見ばえがする。ソーシソンは、よく乾いていて固めなものを選び、切れ味のいい包丁でできるだけ薄く切りたい。フランス人にはアペロとしてウイスキーを飲む人がかなりいる。それもスモーキーなウイスキーだったりしたら、ブタの臓物の腸詰め、アンドゥイユがみごとにマッチする。切り口が木の年輪のように美しいアンドゥイユ・ド・ゲムネは、臓物特有のくささが多少あるけれど、柔らかな味わいがあっておすすめだ。ただ直径が7センチ以上あるので半分に切り分けてから、薄く切って扇状に皿に並べるといい。
これらのおつまみはどれも市販のものだが、一品くらい自家製を加えたら、さらに喜んでもらえるだろう。ぼくは、フランスならではの大きなナスをつかって、ナスのキャビアをつくる。
ナスのへたを切りとって皿に並べ、本来は熱めのオーブンで焼くのだが、目盛りを750wくらいに合わせた電子レンジで片面5分ずつ加熱すればいい。まな板にのせ、皮をむいてから包丁でたたいてミンチ状にし、ボウルにとる。おろしたニンニク2片、レモン半個分のしぼり汁、オリーブ油大さじ2杯ほどを混ぜ入れる。ゴマ風味もつけたい。この料理のオリジナルでは、タヒニというゴマペーストをつかうのだが、なかったらゴマ油適量をたらすことにしよう。塩とコショウで味を調えればでき上がり。このキャビアをぬることができるように、トーストして小さく切り分けた食パンを添える。イタリア風にグリッシーニgrissini(フランス語ではgressin) を添え、ディップしながら、というのもたのしい。
これだけおつまみを用意すれば話もはずみ、食前酒をもう一杯ということになるのだが、このあと食事が控えているのだし、せいぜい二杯くらいにおさえたい。(真)
Andouille, andouillette
アンドゥイユは、ソーシソンのごとくそのまま薄く切って味わうことができる臓物の腸詰だ。豚の胃腸を腸に詰めてから、時間をかけていぶし、クール・ブイヨンで煮たり蒸したりして作られる。アンドゥイユ・ド・ゲムネandouille de Guémenéは、ブルターニュ産で、そば粉のクレープの具にもなる。アンドゥイユ・ド・ヴィ―ㇽandouille de Vireは、ノルマンディー産で、脂身も入っていて、まろやかな風味。
アンドゥイエットは必ず火を通してから味わう。豚の胃や腸をきれいに洗って脂を除いてから、パセリやペッパーなどを混ぜて腸に詰め、クール・ブイヨンで8時間くらい煮込んだもので、トロワ産が名高い。フライパンで表面がカリッとなるまで焼いたり、オーブンで火を通したりする。マスタードソースがよく合う。
Amuse-bouche
アペリティフ大好きなフランス人のために、スーパーには、ひと口大のブレッツエルやミニピッツアといったつまみ用スナックbiscuit apéritifにはじまり、手軽につまみになる商品が並んでいる。トーストしたパンやグリッシーニ用に、ナスのキャビアだけでなくヒヨコ豆のペーストhoumous、オリーブのペースト、タップナードtapenade…。そしてトルティーヤチップス向けの少々辛いソースやアボカドのペースト、ワカモレguacamoleも各種そろっている。さまざまな風味をつけたサイコロ大のチーズとり合わせapéricubeも人気がすたれないけれど、ぼくは、コンテやゴーダ(グーダ)などのチーズをやはりサイコロ大に切ってクミンパウダーを振りかけることにしている。
Tahin (tahini,tahina)
タヒニは中東産ゴマのペースト。ふつう白ゴマを軽くいってからすりつぶしたものだ。ナスのキャビアにも、本格的にはタヒニを混ぜ入れる。油と分離していることが多いので、混ぜ合わせてからとり出し、水とレモンのしぼり汁少々を加え、あつかいやすい固さにしてからつかう。フムスにも欠かせないし、ドレッシングやソースに加えたり、和風のゴマ和えにもつかえるし、中国産のゴマペースト芝麻醤同様、じつに便利な食材だ。