舞台はドイツの中学校。校内では盗みが発生している。「寛容ゼロ」を掲げる学校側は、生徒に盗みの自白や密告を促す。一方、新任教師のカーラは、「無理に答えなくても良い」と、生徒を庇う優しさも見せる。相変わらず盗みが続き、保護者まで巻き込むなか、カーラは犯人探しを始めた。パソコンに隠しカメラを作動させるが、それが思わぬ騒ぎを引き起こす。
監督は1984年生まれで、本作が長編4作目のトルコ系ドイツ人イルケル・チャタク。ベルリン映画祭パノラマ部門での受賞を皮切りに、本国ドイツの映画賞では作品賞を含む主要5部門を制覇した話題作。
中盤以降、主人公がみるみるピンチに陥ると、感情移入していた観客は動揺するかもしれない。なぜなら彼女はいたって常識人。聡明で感じも良い。もし自分が同じ立場だったら、彼女以上にうまく立ち回れるとは思えないからだ。
カメラは校舎の外に出ず、閉鎖的な学校内の出来事に集中する。その分視線は研ぎ澄まされ、追い詰められ型の心理スリラーとして効果を発揮する。相手を疑う疑心暗鬼と不寛容さが連鎖する世界は、なんて息苦しいのだろう。これはドイツに限らず、世界的な傾向に違いない。だからこそ小さな物語を扱っているようで、世界に響く普遍性を備える。現在は米アカデミー賞国際長編映画賞候補に残る。
ミヒャエル・ハネケのカンヌ映画祭パルムドール作品『白いリボン』(2009年)の出演で知られるレオニー・ベネシュがカーラ役を好演。監督はベネシュが『白いリボン』以降大役がなかったことを不条理に思い、満を持して主役オファー。強さと脆さを抱えながら、クレッシェンドで高まる緊張の圧にひとり抗う若き教師像を見事に演じる。3/6公開(瑞)