フランスで公開された石川慶監督の映画『ある男』が好調だ。仏配給元によると、最近の邦画の話題作『浅田家!』『HOKUSAI』をしのぐスタートダッシュを見せたそう。「『ある男』はエレガントなスリラーの外観をまとう。Kei Ishikawaはビロードのような優美さで、奥行きのあるテーマをかき回す」(フィガロ紙)など、批評家受けもなかなか良い。
原作は芥川賞作家の平野啓一郎による同名ベストセラー小説。事故で亡くなった夫、大祐(窪田正孝)の法要の日、妻の里枝(安藤サクラ)は、夫が別人の名を名乗っていたことを知る。愛したはずの男は誰なのか。里枝は弁護士の城戸(妻夫木聡)に、奇妙な身元調査を依頼する。戸籍とは?アイデンティティとは?
結局、個人を個人たらしめるものとは何なのか。そんな人間存在の根源に一考を促すヒューマンミステリーだ。日本は行方不明者が年間約8万人という”蒸発大国”の顔も持つ。そんな社会背景も透けて見える本作に、フランスでは巨匠今村昌平監督のドキュメンタリー『人間蒸発』(1967年)を思い出す人も多いようだ。
本作は2022年のベネチア映画祭のオリゾンティ部門でワールドプレミア上映され、釜山やバルセロナ、カイロら世界の映画祭をめぐったのち、日本ではアカデミー賞で最優秀作品賞を含む8部門で受賞を果たした。
先ごろ、東宝が製作した山崎貴監督『ゴジラ-1.0』が、アメリカでは米アカデミー賞の視覚効果賞にノミネートされ話題となったばかり。翻って本作も、老舗の松竹が実写映画を珍しく海外で成功させた好例と言えるだろう。これまで日本の大手が手がける邦画は、国内市場向けでガラパゴス化し海外では戦えないと揶揄されてきたが、ここにきて日本の大手映画会社による逆襲が始まっている。
『ある男』の場合は社内の若手プロデューサーが、世界の映画祭でも認められ、かつ国内でヒットも狙えるような作品をはじめから狙って製作された。ここで白羽の矢が立ったのが、人気原作の映画化を得意とし、作家性と大衆性のバランスが取れた秀作を手がける気鋭の石川慶監督だった。今回は長編デビュー作『愚行録』で組んで以来、監督が絶大の信頼を置く俳優の妻夫木聡を再び主演に迎えている。
また、脇を固める濃厚な役者陣も、安藤サクラ、窪田正孝、柄本明など、「この人が起用されていたら面白い映画の目印」になっているような人ばかり。フランスの劇場に登場したこの機会に、見応えと余韻のある骨太エンターテインメントを楽しんでほしい。(瑞)
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