ナンシー、甘いもの探索。
Saint-Epvre
「サンテーヴル」製法を知る世界唯一の菓子職人に会いに。
「菓子の大切な材料は?…ハートさ!」と、胸に手をあてるジャン=フランソワ・アダンさん。サンテーヴル教会前の店には、彼が作る 「サンテーヴル 」を買いに続々と客がやってくる。この菓子は1882年、マカロンを作るのに失敗したリュイリエ氏がそれをヒントに創作した。2枚のアーモンド入りメレンゲにバニラ入りバタークリームをはさみ、ヌガティーヌの粉をかけたもの。1907年に商標登録されたので、似たような菓子でもサンテーヴルと名乗ることはできない。
レシピは門外不出で100年以上守られてきた。その秘密のレシピは5部に分けられ、それぞれ別の場所で保管されていたが所在不明となり、もはやアダンさんの記憶にしかレシピは存在しない。レシピを口外しない、工場生産しないと誓ってサンテーヴル職人6代目となって41年。後継者も考えるが、「同じ職業愛を持つ人にしか教えない」。そのため今はひとりで店の全商品を作っている。ベルガモット飴、ミラベルのパット・ド・フルイ(フルーツゼリー)、ロレーヌ風ミートパイ(Pâté Lorrain)自分で型をつくって砂糖を溶かして流し込み、アール・ヌーヴォースタイルの壺なども制作してしまう。
「サンテーヴルは、誕生日、結婚、葬式、お祝いなどの時にみんなが食べるもの。菓子は、家族の集まりの食事を締めるものな。家族の集まりは何かしら口論になったりするけれど、それを鎮める、そんな役割だってあるんだ。それがおいしくないとまずいことになる」。
情熱家アダンさんのサンテーヴルを食べてみると…甘い雲を口にふくんだようなホワっ、さっくり、そしてフワンと溶ける。クリーム作りで大きなバターの塊をふんだんに使っていたのを見ていただけに、魔法にかけられたような気がした。
Patisserie Adam – Le St Epvre :
3 place de Saint-Epvre 54000 Nancy
Tél:03.8332.0469
月休、8h30-19h30 (日-18h)
www.patisserie-saintepvre.fr/artisan-patissier
Visitandines de Nancy
おいしく焼くのはプロの腕と「型」!
グウィズダックさんの店のウィンドーにはロレーヌ地方最高ブリオッシュ賞に輝いたクグロフ、ミラベルのリキュール入りスポンジケーキ「ガトー・ロレーヌ」などが並ぶ。この、ロレーヌの紋章でもある「ロレーヌ十字」が砂糖で描かれたガトーは、グウィズダックさんの創作だ。
もう一つ有名なのが「ヴィジタンディーヌ」だ。ヴィジタシオン修道会のシスターたちが作っていた小麦粉、バター、卵白、アーモンドパウダー、砂糖で作る焼き菓子。「昔はどの菓子屋でも作っていましたし、私はレシピを隠したりはしませんよ!みんな家でおいしいお菓子を作りたいでしょ。ほら、写真を撮りなさい!」と材料の分量が書かれた紙をこちらに向けてポーズ。おいしさの秘訣は10年ほど骨董市に通って集めた鉄製の型。これを使うことで表面はカリッ、中はしっとりと焼けるのだそうだ。
Boulangerie-Pâtisserie Gwizdak:
19 rue Raugraff 54000 Nancy
gwizdak.fr
▶︎Excelsior :
50 rue Henri Poincaré 54000 Nancy (ナンシー駅正面)
Tél: 03.8335.2457
▶︎Maison des Sœurs Macarons :
21 Rue Gambetta, 54000 Nancy
Tél:03.8332.2425
日休。月は14h-19h、火〜土は9h30-19h
ナンシーの甘いもの文化と、スタニスラス公。
「フランスで最も美しい広場」と称されるスタニスラス広場。その中央に立つ彫像はスタニスラス(ポーランド語ではスタニスワフ)・レシチニスキ、ポーランドの王位を追われ、欧州を転々とした後ロレーヌ公の座についた。娘マリー・レクザンスカが国王ルイ15世の妃となったからだ。
ナンシーから30kmほどのリュネヴィルの〈ロレーヌのヴェルサイユ〉といわれる居城で贅沢に暮らした。食事は一日に一度だがおびただしい数の料理が供されたという。彼がフランスにもたらした柑橘果物ベルガモットの香りや、宮廷で供されたマカロン、ロレーヌ地方で収穫されるミラベルは、今もナンシーっ子たちの大好物だ。
Baba au vin de Tokaji
失われたスタニスラス公の「ババ」を求めて
「Babaババ」といえばスポンジケーキをラム酒に浸すものだが、スタニスラス公のババは「生地にサフランを混ぜたブリオッシュをトカイワイン (ハンガリーの貴腐ワイン)に浸します。甘いものが大好きで公は晩年、歯がなくなっていて」と、レストラン「善王スタニスラスの食卓」 (p7)のシェフ、イヴァン・ロロさん。
18世紀のレシピ通りに作っていたが、客の反応がいまいちだったので、サフランはブリオッシュ生地に混ぜずにアイスにして添える。ベルガモットを12月の収穫期に注文して、じっくりと砂糖漬けにし、Bergamote Candyなども作る。
Le Grand Hôtel de la Reine
スタニスラス広場を見下ろす広間で朝食を。
「フランスで最も美しい広場」と称されるスタニスラス広場に面したホテル・ド・ラ・レーヌは、ウィーンからヴェルサイユへ嫁ぐマリー=アントワネットが旅の途中、1770年5月9日に泊まった場所。彼女の父親はナンシー生まれのロレーヌ公だったフランツ一世。同公はハプスブルク家のマリア・テレジアと結婚しロレーヌ公国を手放したが、マリー・アントワネットにとってロレーヌは祖先の地だ。
このホテルの2階の広間で優雅な朝はいかがだろう。宿泊客でなくても朝食をとりに行くことができる。近い将来、超高級ホテルになるらしいから、今のうちに楽しんでおこう。スタニスラス広場は、ユネスコ世界遺産に登録されて40年。昨年の「フランス人の最も好きなモニュメント」人気投票では一位になった。
Le Grand Hôtel de la Reine :
2 Place Stanislas 54000 Nancy Tél : 03.8335.0301
ビュッフェ式朝食月〜土 : 7h-10h30 / 日 : 7h30-11h 22.50€
www.hoteldelareine.com
取材協力 :
Destination Nancy
Agence Régionale du Tourisme Grand Est
辛党も大満足の町。
ナンシーっ子たちと席を並べて、ワインとつまみ。
L’Echanson
スタニスラス広場から歩いて5分だが、こちらは小さなレストランが並ぶ石畳の小路。ワインバー「レシャンソン」には、昼でもゆったりとテラスに(店内も)座ってワインと食事をたのしむ人たちの姿がある。ロレーヌ風ミートパイ(Pâté lorrain)、グリーンサラダを添えたキッシュや、フィセル(細いサラミ)をつまみながら飲める。ナンシーで醸造するものも含めて、ナチュラルワインを置くワインショップも向かいに経営している。
L’Echanson
9 rue de la Primatiale 54000 Nancy
Tél : 06.3214.1438
日休、 火〜金9h-14h30/17h30-20h、土9h-20h
www.facebook.com/LEchansonNancy/
La Maison dans le Parc
ナンシーの星つきシェフは、日本びいき。
シャルル・クロンボーさんのレストランはペピニエール公園に面している。この店を開店する前、妻とふたり石川県へ。ルレ・シャトー系列のレストランで懐石料理に触れてから、出汁、漬物、ローカルな魚でかつお節 (風)や鴨の心臓で”カモ節”を作るようになった。活け締めも習い、郊外の農家でフランス産和牛も買って使い、備長炭で魚を焼いたりもする。日本語を習っていて自分で作ったヤギのチーズはKoyagi、フードトラックはIzakayaと命名したりもする。好奇心旺盛で心向くままのびのびと遊んでいるように見えるが、店をオープンした翌年2022年にナンシー唯一 (今は2軒)の星付きレストランに。キノコなど季節の素材を何通り (十数皿の場合も)にも料理するおまかせなど、31歳のクロンボー・シェフの「遊び」は続く。
3 rue Sainte-Catherine 54000 Nancy Tél:03.8319. 0357
lamaisondansleparc.com 月火休、水〜土12h-13h30/19h30-21h
ランチ:前菜+主菜+デザート 60€ (+ワイン2杯75€)。他メニュー78€-。