現在、パリのシネマテーク・フランセーズでは「ヴァルダ万歳」と題したアニエス・ヴァルダ監督の回顧展が開催中だ。ヌーヴェル・ヴァーグと並走した唯一の女性監督のヴァルダはシネマテークと近しい間柄。2019年3月に90歳で亡くなったが、そのほんの1ヶ月半前まで当館で回顧上映を実施、本人も病身ながらファンの前に姿を見せていた。
彼女亡き後、シネマテークは展覧会の企画を娘ロザリーに相談、計画は動き出す。40本以上の映画を残し、ベネチア金獅子賞、オスカーやカンヌの名誉賞を受賞した “巨匠”としてだけでなく、写真家や美術家でもあり、何より自由な精神で行動し続けた好奇心旺盛な女性アーティストの記録となっている。
ヴァルダは1951年にパリ14区ダゲール通り86番地に自宅兼仕事場を構え、生涯住み続けた。この間、無数の思い出の品々を自身の城に溜め込み続けたという。展示品総数は400点以上。写真や映像、インスタレーションなどの作品、『冬の旅』でモナが着ていた革ジャケット、『落穂拾い』で登場した針のない置き時計など映画の小道具はもとより、自宅から発掘された私物コレクションも興味深い。夫ジャック・ドゥミに送ったスクラップブック、友人のクリス・マルケルが描いたヴァルダのデッサンなど、見ていて楽しい宝の宝庫だ。かつて「ヴァルダの取材時には猫グッズを持っていくと良い」と言われたことがあるが、会場の隅にはやはり自慢の猫グッズコレクションもあった。
展示は時系列ではなく、「あちらこちら、ヴァルダとイメージ」「世界への好奇心」など5つのカテゴリーで構成。とりわけ展示の最後は「陽気で自由なフェミニスト」として、フェミニストの顔を大きく紹介している。彼女はヴェイユ法制定前に人工妊娠中絶合法化を求めた「343人のマニフェスト」に署名。映画『歌う女、歌わない女』では、ヒッピー的多幸感と女性同士の連帯のある新時代のフェミニスト像を描くなど、常に時代を牽引する存在だった。
会場の壁はピンク、緑、オレンジと鮮やかな色に溢れる。彼女の作品に馴染みのない人にも入りやすく、親しみやすい空間だ。今回の回顧展に合わせ、シネマテークでは映画上映や討論会を実施。また同館運営の無料サイト「HENRI」では、娘ロザリーが本展示のため自宅を整理した際に地下室で発見した16ミリフィルムの修復映像『Pier Paolo Pasolini – Agnès Varda – New York – 1967』を公開中*。パゾリーニがヴァルダの質問にフランス語で答える4分間の貴重映像だ。(瑞)(2024年1月28日まで開催)
映像のリンクはこちら↓
*『Pier Paolo Pasolini – Agnès Varda – New York – 1967』
★ オヴニー 特集「アニエス・ヴァルダに会いに行く」の記事は、こちらのページでご覧ください。
Cinémathèque Française
Adresse : 51 rue de Bercy, Paris , Franceアクセス : Bercy
URL : https://www.cinematheque.fr
展覧会入場料:一般12€ / 割引9.5€ / 18歳未満6€