Degas en noir et blanc – dessins, estampes, photographies
エドガー・ドガ(1834-1917)といえば、油彩やパステルの淡い色彩で描いた踊り子で有名だが、実は「人生をやり直すことができれば、白黒だけで制作するだろう」と言ったほど白黒が大好きだった。国立図書館所蔵品を中心に、親交のあったメアリー・カサットなどの作品も含め、版画、デッサン、写真など160点で構成する本展は、白黒の世界にのめり込んだドガの知られざる一面を見せてくれる。
銀行家の家に生まれ、早くから画家を目指した。19歳の時、ルーヴル美術館で模写に励んだが、せっかく合格した国立美術学校には半年しか通わなかった。翌年、父の友人でアマチュア版画家・版画コレクターの貴族からエッチングの手解きを受けた。その後長期滞在したイタリアでも版画家に師事した。型通りの教育を嫌い、自分で師を選んで学ぶのがドガのやり方だったようだ。
ドガは版画でさまざまな実験をした。友人のマネをモデルにしたエッチングの「座ったエドゥワール・マネ」には2枚のエディションがある。1枚では右向きで足を組んでいない。もう1枚では左向きで足を組み、帽子を手にしている。背後の処理も異なっている。1枚刷った後、手を加えたのだ。
複数の版画技法を併用することもあった。同じく友人の画家のカサットをモデルにした「ルーヴル美術館のメアリー・カサット」では、エッチング、アクアチント、ソフトグランドエッチング、ドライポイントを使った。同じ版から20枚刷ったが、それぞれ白黒の濃淡が異なり、描かれたモチーフも微妙に違う。エディションナンバーが若いものでは色が薄く、壁にかけられた絵もはっきりしないが、エディションナンバーが終わりになるほど黒が濃くなり、細部が複雑になってくる。
ドガが使った技法の中で、特に興味深かったのがモノタイプだ。金属やプラスチック(ドガの時代はセルロイド)の板に油性インクや油絵具で絵を描き、その上に紙を乗せて上からプレスで圧力をかける。
他の版画と違い、同じ版で何回も刷ることができず、1つの版で1作品しかできない。モノタイプを使った「浴槽から出る女」には墨絵のような味わいがある。ここまで灰色の微妙な違いを出すまでには相当実験を重ねたに違いない。
晩年はリトグラフも手がけ、1890年代からは写真も撮った。ドガの版画も写真も、生前は仲間内だけで知られており、流通することはなかったという。
色彩のドガを表とすれば、その裏が白黒のドガだ。この展覧会で裏の部分の奥深さとドガの秘密の部分に触れられたような気がする。
展覧会にはオマケがある。ドガを登場させたピカソの版画4点が出口に飾られているのだ。ピカソはドガのモノタイプを数点持っており、アトリエにはドガの写真もあった。展示作品はどれもピカソが死ぬ2年前の1971年に制作されたものだ。娼家で女性を描くドガ、女性を見るドガなど、ピカソ的世界に吸収されたドガがいる。
この最後の部分で、ドガは「印象派」という時代の枠から解き放たれ、時を超えて現代につながったと思った。(羽)
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改修された国立図書館リシュリュー館へ行ってみよう。
Bibliothèque Nationale de France - Richelieu
Adresse : 5 rue Vivienne, 75002 Paris , FranceTEL : 33(0)1 53 79 59 59
アクセス : Bourse
URL : https://www.bnf.fr/fr/agenda/degas-en-noir-et-blanc
月と祭日(8/15も)休、火10h-20h 、水-日10h-18h、8/15休。8~10€ 。