パリの人類博物館では、先史時代芸術がパブロ・ピカソに与えた影響を見せる展覧会が開催されている。1973年に91歳で亡くなったピカソの没後50周年イベントの一環である。絵画、デッサン、彫刻、陶器など40点を展示する小さな展覧会だが、初公開の個人蔵の作品もあり、ピカソの知られざる一面を垣間見ることができる。
スペイン北部でアルタミラの洞窟壁画が発見されたのは、ピカソが生まれる2年前の1879年。壁画が本物の先史時代の絵であると科学的に実証されたのは、その23年後、ピカソが21歳の時だった。当時パリとバルセロナに滞在していたピカソにも、このニュースは伝わったはずだ。
しかし、ピカソの作品に先史時代の影響が出始めたのは1920年代以降である。実際の考古学の現場に行ったことはなかったが、写真やレプリカなどの複製を集めており、芸術と先史時代展で展示されている「レスピューグのヴィーナス」(1922年発見)のレプリカも購入していた。
1931年の油彩「石を投げる女」に見られるように、女性の体に丸みを持たせ、顔を抽象化するようになった背景には、先史時代のヴィーナス像の影響がある。このモチーフは、ガスバーナーをヴィーナスに見立てたレディメイドの彫刻「ガスのヴィーナス」(1945年)にも引き継がれた。
ピカソは雄牛や、ギリシャ神話に登場する、頭が雄牛で体が人間のミノタウロスを好んで描いたが、牛はアルタミラやラスコーの壁画の作者たちが多く描いた動物でもあった。
初公開の作品は、海辺で拾った小石に人の顔などを彫った作品群である。先史時代の人々も、動物の骨や小石に動物や人間の姿を彫刻していた。どちらも虫眼鏡で見なければわからないほど小さく彫られている。ピカソは小石を彫りながら、先史時代の人々の超常的な芸術パワーを自分のものにしようとしたのかもしれない。(羽)
6/12まで
Musée de l'Homme
Adresse : 17 place du Trocadéro , Paris , FranceTEL : 01 44 05 72 72
アクセス : Trocadéro
URL : www.museedelhomme.fr
火休、11h-19h。10/13€。