人々が環境問題に敏感になり、生物多様性という言葉が一般にも浸透するようになって、美術界でも自然を扱うアーティストが増えてきた。その中でも、グルノーブル美術館の「自然」展は出色の展覧会である。4人のグループ展だが、それぞれが超一級のアーティストなのだ。各自の個性が際立った見応えのある展覧会となった。
最初の展示室では、アマリリスやバラを大画面に描いたフィリップ・コニェ(1957―)の作品が並んでいる。萎れかけた花もある。花を大きく描いた画家にはジョージア・オキーフがいるが、オキーフの花が夢見ているとすれば、彼の花はもがき苦しんでいる。その花の中に萎れつつある美が感じられ、人生を見ているような錯覚に陥る。次の展示室には、木々が密生した森の風景、廃墟を思わせる「砂の城」シリーズの作品がある。
クリスチナ・イグレシアス(1956 – )は、スペインで最も重要な現代美術家の一人。コンクリート、金属、ガラスなどを使い、ハイブリッドな空間を作り出す彫刻家だ。本展では、人が中に入れる大きなキューブ型のオブジェの中に、鍾乳洞の壁面のように有機的な空間を作り出した。氷柱のようだが、よく見るとブロッコリーの一種ロマネスコの形をしている。植物と鉱物が混じった不思議な空間だ。
南ドイツ出身のウォルフガング・ライブ(1950―)は、医師の免状を得た直後、医者になるのをやめて造形作家を目指した異色のアーティストだ。蜂蜜、ミルク、石など自然の素材を使う。本展のハイライトは、自ら草原で集めた花粉を会場の床に四角形に敷き詰めた作品である(冒頭の写真)。東洋哲学の実践者であるライブが作り出す、この世のものとは思えないような光り輝く黄色いスペースは、見る人を瞑想状態に導く。
展覧会のトリを務めるのは、自然を題材とすることでは定評のあるジュゼッペ・ペノーネ(1947―)だ。木に布を乗せ、その上からニワトコの葉を擦り付け、木の皮の模様が青汁で布にうつるようにした。こうして自然の色で、森を表現した。シンプルな技術を使ったからこそ、木がそこにいるように感じられる。
美術館の常設展には、コニェ、ライブ、ペノーネの別の主題の作品が展示されている。この「自然」展を見た後で常設展を見て、3人の活動の幅の広さを感じてほしい。(羽)
3月19日まで
Musée de Grenoble
Adresse : 5 Pl. de Lavalette, 38000 Grenoble , FranceTEL : 04 76 63 44 44
アクセス : トラムウェイB線 "Notre Dame Musée"で下車
URL : https://www.museedegrenoble.fr/2684-de-la-nature.htm
入館料:8€(26歳未満無料)。火休。水―月10h-18h30。