マティ・ディオップ、ジュリア・デュクルノー、オドレイ・ディワン。近年、世界三大映画祭において、新しい世代の仏人女性監督が大きな結果を残している。そして『Saint Omer』を監督したアリス・ディオップも、その仲間に加わったばかり。本作でベネチア映画祭の審査員グランプリと新人監督賞をW受賞。だが、すでに6本の長編ドキュメンタリーを撮っているから、「新人」と呼ぶには語弊もあるだろう。
2013年に起きた実話が基。監督は乳児を海岸に置き去りにした母親の事件を知り、衝撃を受けたという。今回はドキュメンタリーではなく、この母親に対峙する架空の女性を登場させている。この二人がドラマの主人公だ。
ラマは大学で教える小説家で、数日間にわたって裁判を傍聴する。娘の殺人罪に問われるロランスの裁判だ。法廷でロランスは言う。「(殺した理由は)わからない。私も裁判を通してそれを知りたい」。
証言台に立つのは娘の父やロランスの母など。証言の断片から、渡仏した若いセネガル人女性がいかに地獄へと転落していったのか、ラマと一緒に観客も知ることになる。それは見る者の魂を侵食していくような告白だ。
傍聴席と被告席。座る場所は全く違うが、実はラマとロレンスはかなり似ている。たった数メートルの距離の先で、ある時ふたりは視線を交わす。その一瞬の表情だけで、この映画の非凡さが伺える。文句なしに本年度を代表するフランス映画だ。その当然の結果として、アカデミー賞のフランス代表に選出された。(瑞)