日本料理では煮ものにしろ、汁にしろ、鍋にしろ、昆布やカツオ節から作られる《だし》が味を作っている。このだしこそ、日本料理特有のうまみの素となっているわけだが、フランス料理には「うまみ」という考え方はない。ブイヨンと呼ばれるだしを使うレシピもあるけれど、ほとんどの料理は、それに使う肉や魚介類、野菜の持ち味が味のベースになっているからだ。
日本では酒やみりんのようなアルコール飲料も味づくりに一役かっている。それはフランスでも同様で、赤ワイン、白ワイン、ビール、シードル、あるいはコニャックやカルバヴァドス(リンゴの蒸留酒)といったアルコール飲料の、甘み、酸み、苦みが味わいを深くしている。ソースに使われるだけでなく、ブッフ・ブルギニョンや牛肉のフランドル風などのように直接ワインやビールで煮込まれたりする。また魚や鶏肉をシードルで煮込んでもうまい。
ところで「ブイヨンと呼ばれるだしを使う」と書いたけれど、フランス料理のだし、ブイヨンはどんなときに使われるのだろう。魚や豚肉、子牛肉、脳髄などをゆでるときのブイヨンは「クール・ブイヨン court-bouillon」という。必要な量の水に、薄切りにした玉ネギとニンジン、白ワインやビネガー、ブーケ・ガルニ、ときには好みのハーブも入れ、20分ほど煮てこせばクール・ブイヨンのでき上がり。ふつう野菜の風味がよく出るまで冷ましてから使われる。好みの魚をこのクール・ブイヨンに入れて煮て、そのまま冷ましてマヨネーズなどで味わうことが多い。豚肉もクールブイヨンで煮ると極上のハムにも負けない味になるだろう。
チキンのブイヨンbouillon de poulet(volaille)も使用範囲が広いので、何度か作り方を書いている。さまざまな肉の煮込み料理に入ったり、リゾットに使ったり、ソースをのばしたりするときに大活躍する。またさまざまなスープのストックにもなる。
クール・ブイヨンもチキンのブイヨンもキューブ状あるいは粉末状のものが市販されていて、時間がないときには便利だけれど、すでに塩が添加してあることがほとんどなので、塩加減に気をつけよう。(真)
Fumet de poisson
フュメ・ド・ポワソンは魚料理のソースを作るときに欠かせない濃いめのだしだ。たとえばタイのおろし身のソテーのレシピでフュメ・ド・ポワソンを使っている。
1キロくらいのヒラメやタイやスズキなど白身魚のあら(頭や身のついた骨)の血などの汚れを流し水でのぞき、切り分ける。玉ネギ1個かエシャロット2個をみじんに切る。鍋にバターをとり、玉ネギを2分ほど色がつかないように炒めたら、あらを加え3分ほど炒める。ここで白ワインを半カップほど入れ、中火で半分くらいになるまで煮詰め、ひたひたちょっとに水を注ぐ。ブーケ・ガルニも加え、再沸騰したら浮いてくるあくをすくいながら20分ほど火を通す。30分ほどおいてからこせばフュメ・ド・ポワソンのでき上がり。エビの頭や殻もフュメになるけれど、サバやサケ、マグロなどの脂の多い魚は不向き。フュメが残ったら、タッパーなどに入れてふたをし、冷凍庫で保存する。
Bouquet garni
ブイヨンや煮込み料理やスープ、あるいはブイヨンの香りづけに欠かせないのがブーケ・ガルニだ。長ネギの白い部分を10センチくらいの長さに切る。縦に、切り離さないよう切れめを入れて、芯の部分をとりのぞく。そのすき間に、パセリ少々、タイム2枝、ローリエの葉1枚を詰め、料理用の糸でしっかりと結ぶ。料理によってはセロリ茎も入るが、その場合は、茎をネギと同じ長さに切り、最後にネギの切り口にふたをするように糸でしばる。最後にネギからはみ出ているパセリの葉や茎を切り落とせば、プロも顔負けのブーケ・ガルニ。