写真を細長く切って縦糸と横糸にし、織物状の作品を作るアーティスト二人がケ・ブランリー美術館とスェーデン文化センターで展覧会を開催している。
Dinh Q. LE Le fil de la mémoire et autres photographies
ケブランリー美術館、ディン・Q・レ「記憶の糸とその他の写真」
ケ・ブランリーのアーティストは、カンボジア国境付近のベトナムで生まれ、10歳の時にクメール・ルージュの侵略を逃れて家族と共に米国に亡命したベトナム人のディン・Q・レ(1968―)。カリフォルニア州立大学で写真を学び、ニューヨークのスクール・オブ・ヴィジュアル・アーツで芸術修士号を取得した。現在はベトナムのホーチミン市に住んでいる。カッセル(ドイツ)のドクメンタ やヴェネツィア・ビエンナーレに参加した世界的に有名なアーティストだが、フランスの美術館での個展は今回が初めてだ。
レが写真を織って表現するのは、クメール・ルージュによる市民の虐殺、ベトナム戦争という自分の人生に大きく関わった歴史だ。しかし、ストレートに戦争や侵略の悲惨さや非道さを訴えるものではなく、作品と歴史的事実の間にクッションのような空間がある。縦糸と横糸に異なる写真を使うこともある。異なる複数の写真を同じ画面に組み込むことで、歴史に基づきつつも、見る人にさまざまな感情や想像を呼び起こす重層的な効果を生んでいる。
「ベトナムからハリウッドへ」のシリーズでは、ベトナムの写真とハリウッド映画の写真を組み合わせた。レは「ハリウッドが製作したベトナム戦争の映画には、ベトナム人の視点がなかった。ベトナム戦争の報道写真にも、ベトナム人の日常が反映されていなかった」と言う。これらを解体して、自分の視点として織物で再構築したのが彼の作品だ。
カンボジアをテーマにした作品群の中では、クメール・ルージュに拷問にかけられた思春期の子どもの肖像(カンボジアのトゥールスレン虐殺博物館所蔵)と風景、プノンペン宮殿にあるカンボジア版ラーマーヤナ(古代インドの叙事詩)の壁画を組み合わせた「カンボジア ラーマーヤナCambodia Reamker #11」が印象的だった。栄光に満ちたラーマーヤナの物語と美しい肖像、風景から虐殺を想像することはできない。それだけに、作品の背後にある歴史の重みが衝撃的だ。11月20日まで
Musée du Quai Branly
https://www.quaibranly.fr/
火水金土日:10 :30-19 :00 、木:10 :30-22 :00
入場料:12€
Longing – fils tissés, récits croisés
スウェーデン文化会館「憧れ – 織り糸、交差する物語」
スウェーデン文化センターでは、織りで表現するテキスタイルアーティストのグループ展が開かれている。この中のクリスチナ・ミュンティング(1973―)は元は写真家で、テキスタイルアーティストに転向した。
レと同じく、彼女も社会的、歴史的な視点で製作する。写真家だったが、写真をやめてしまったスェーデン女性の古い写真を織って女性写真家の先駆者へのオマージュとした。造形的により大胆な作品も作る人だが、ここでは肖像の一部を織って元の写真がはっきり出た作品を展示している。織物の歴史と社会主義初期に関心があるというが、この作品からはフェミニズムの視点が感じられる。
スェーデン・クラフトセンターの協力のもとで開かれた本展には、スェーデン、タイ、フランスなどから6人のアーティストが参加している。8月14日まで
Institut Suédoiparis.si.ses
:11 rue Payenne 3e Paris
水-日:12h -18h
入場無料
Institut Suédois
Adresse : 11 rue Payenne, 75003 Paris , Franceアクセス : St-Paul
URL : paris.si.se
水-日:12h -18h 入場無料