フランスの食文化がユネスコの世界無形文化遺産に登録されて11年。ブルゴーニュ地方の首府ディジョンに「Cité de la Gastronomie et du vin」がオープンした(以下、シテ)。ユネスコ登録後、国内4都市に食の文化施設を創設するという政府決定に沿って2018年に開館したリヨン(休館中)に続く、2番目のもので、今後パリ=ランジス、トゥールとオープンが続く。
6.5ヘクタールのシテには選りすぐりの食材店が並び、店頭で調理したものをその場で食べられる「ガストロノミー村」、地元の3つ星シェフ監修のレストランやブラッスリー、3000銘柄のワインを揃えた大カーヴ(写真)。食とブルゴーニュワインについて、またディジョンの歴史と建築史に関する展示。料理学校、ワイン学校もある。
「食文化」とは何か。フランスの食の伝統とはどんなもので、それをいかに後世に伝え、同時に世界へ発信するのか……難しい宿題を抱えたシテ・ド・ラ・ガストロノミーだが、実際行ってみると人々は嬉々としてワインを試飲しグジェールをつまみ、展覧会で新しい発見を楽しんでいる。町のレストランも笑顔でテーブルを囲む人でいっぱいだ…。
まさに食文化が息づいているディジョンの町で、新しい形のガストロノミーを体験してみることにした。(六)
ディジョンに Cité de la Gastronomie et du vin オープン!
新しいガストロノミー体験。
今、フランスでは 〈食〉が大流行り。連日メディアにスターシェフが登場し、食イベント開催も多く、ミュージアムでも食関連の展示が続く。
とはいえ、一口に 〈食〉と言ってもさまざまな側面がある。食事は人が集う社会的な行為であり、テーブルウェアや盛り付けは食卓を演出する芸術。料理は化学だし、食べる側の五感、栄養摂取も大切だ。そんな様々な角度から 〈食〉を科学的に、多くの人に体験してもらい知ってもらおうというのがシテ・ド・ラ・ガストロノミー (以下シテ)の主旨だ。「見学して、食べて飲んで、遊びながら学ぶ場」だという。ブルゴーニュではこの他にも、マコン、シャブリ、ボーヌに新しいシテ・デュ・ヴァン (Cité du Vin) のオープンが予定されている。
南北の交易路上にあり古くから様々な物産がもたらされたディジョンでは、教会によってワイン醸造の伝統が築かれ、ブルゴーニュ公国の首都としてその繁栄とともに食文化が開花した。パリからは鈍行でも3時間。オープンして数週間の、新しい 「シテ」に、高級レストランでの食事とはちょっと違うガストロノミー体験をしに行ってみた。
シテ・ド・ラ・ガストロノミーへ。
「見て、食べ、飲み、遊びながら学ぶ場」と表現するのは、この「シテ」のプロジェクト・ディレクター、ヴェロニク・ヴァシェさん。彼女の言うとおり、食べたり、飲んだり、見学しながら楽しく「食」について学べそうだ。まずは、やはり食べる、から。
■ 食べる ■
Table des Climats
ディジョンから40kmほど南のシャニーの3つ星レストラン 「メゾン・ラムロワーズ」のシェフで、仏国家最高職人章を持つエリック・プラ氏が監修、若いシェフ、ケヴィン・ジュリアン氏が厨房に立つ、「シテ」のなかでも贅沢な空間が「Table des Climats」だ。料理とワインのペアリングを大切にし、メニューにはそれぞれの料理に合ったワインが付いたものもあるけれど、ワインなしのメニューで、自分の好みのワインをソムリエのノエルさんと一緒に選ぶのも楽しい。グラスで頼めるワインも25種類揃っているのだから。
Cité de la Gastronomie et du Vin内。
日曜夜と月休。12h-13h30 /19h-21h30
Tél : 03.8041.7498
〈昼〉 38€ (ワイン3杯付き55€)/ 55€
〈夜〉59€ / 71€
Comptoir de la Cité
前出エリック・プラ氏が監修したブラッスリー。ブルゴーニュ料理を現代風にアレンジしたり、テイクアウトも可能。前菜9€、主菜13€、デザート6€で各4種類。シテ入口前の広場に面したテラスに座って食べられる。
月休、11h-22h 土-23h30
Tél :03.8041.7016
Cave à manger
Cave de la Cité (次の項目 「ワイン」 参照)併設のカフェ・バー。Caveからワインを買ってきて飲んでもよし、ここで買って室内テラスに座るのでもいい (グラスワインは、白と赤各3種。6cl:4€/12cl:7€)。ハム・チーズ類盛り合わせ(12€)、パテ・アン・クルトなどつまみあり。
毎日10h30 à 21h30。
■ ワイン ■
Cave de la Cité
大カーヴにはブルゴーニュワイン千銘柄を含む、全3千銘柄が揃う。ボタンを押せば望みの量がグラスに注がれる機械 「エノマティック」を使い、約250銘柄をグラスで試飲できるように充実させていくそう。
試飲するには中央のカウンターのレジで試飲カード10€、20€を買い、グラスをもらう。そのカードをエノマティックに差し込んだら、欲しいワインの欲しい量のボタン(3cl/6cl/12cl)を押せばグラスに注がれる。それぞれの値段はボタンの下に書いてある(3clで2€程度から)。クレジットが無くなったら、またレジでお金を払いチャージしてもらう。杖をつくおばあちゃんも、中年グループも若いカップルも、真剣かつ興奮気味にワインのラベルを読み、ボタンを押してグラスにワインを注ぐ。
上階は発泡性ワインのカーヴ (試飲なし)、地下カーヴにはブルゴーニュのグラン・クリュ (シャンベルタン、ロマネコンティなど)が眠っているが扉は特別な時しか開かない。
毎日10h30-21h30
■ 遊んで、学ぶ ■
Chapelle des Climats
1842年のファサードが美しい礼拝堂では 「ブルゴーニュのクリマ」に関する常設展。ブルゴーニュはディジョンからボーヌまで60kmにわたり、1247の区画 (=クリマ)で構成される。それぞれの区画で土壌や陽の当たり方が違いそれに適した作業が施されるためワインの味にも違いが生じる。そんなブルゴーニュの畑のシステムを説明する展覧会だ。「ブルゴーニュのクリマ」は、「フランスの食文化」と同じくユネスコの無形文化遺産に登録されている。
Expositions
シテの建物に入ってすぐの展示場で 「フランスの食文化」展と、パティスリーに関する展示 “C’est pas du gâteau ! Les secrets de la pâtisserie française” (C’est pas du gâteau は仏語の表現で「カンタンではない」の意。日本でも人気のパティシエ、ピエール・エルメ氏が特別招待で、若いパティシエたちへのアドバイスなどのコーナーも。
Le 1204 (建築と文化財センター)
「シテ」が建つ6ヘクタールの広大な敷地には、2015年まで総合病院があった。1204年に造られた病院でディジョンっ子には愛着のある場所だ。その病院の歴史と、ディジョン市の歴史、市の建築史をたどることができる、インタラクティブな資料館。
■ 買い物 ■
Village Gastronomique
ブルゴーニュ=フランシュ・コンテ地域圏の食材をメインとする商店が並ぶ 「ヴィラージュ」。肉屋、魚屋さんの前ではグリルをやっていていることもあり、店頭で座って食べられる。
チーズ屋、お菓子屋、コーヒー焙煎で初めてフランス国家最高職人章を授与されたヴァンサン・バロのコーヒー屋なども。ビール自家醸造Bamagotchiはテラスが広く席も見つけやすい。Moulin à moutardeはマスタード専門店。7ブランドを扱ううち、4ブランドはブルゴーニュ産。店内のカメラで写真を撮ってもらい、オリジナルのラベルにするサービスもある (15€)。
9h30−19h30 無休
【Informations】
☞ディジョンへ
パリGare de Lyon駅からTGVで1時間40分。パリBercy駅からTERが出ていて約3時間。
☞Cité de la gastronomie et du vin
Citéは国鉄SNCFのDijon駅から徒歩10分。ディジョン駅南口前からアルクビューズ植物公園のバラの花や樹齢200年もありそうな大木を眺めながら公園を突き抜ければ 「シテ」はすぐだ。
最寄り駅はトラムMonge駅 (駅の目の前)。
・入場無料。展覧会見学のみ : 9€/5€
・ディスカバーチケット : 13€ 展覧会 (「遊んで、学ぶ」参照)+ Cave de la Citéでの試飲*2種)
*レジでディスカバーチケットのQRコードをスキャンしてもらいグラスを受け取る。決められた4銘柄(Chablis / Haute Côte de Nuit / Marsannay /Bourgogne Rouge)から2銘柄を、室内にいるスタッフにボトルから注いでもらう。エノマティックからは選べない。グラスは持ち帰りもOK。
www.citedelagastronomie-dijon.fr
食いしん坊がいっぱい、ディジョンの町へ。
■ 賑やかなマルシェで立ち飲み ■
マルシェは日曜は休みだから土曜の朝に行こうと、そちらの方向へ歩いていると、だんだんと人が多くなってくる。マルシェの正方形の建物が現れると、その周りをぐるっと露天商、カフェやレストランが囲んでいて、どこも人でいっぱい。晴天が嬉しいのか、祭りのような賑わいだ。マルシェの中央の立ち飲み屋”La Buvette”で白ワインとエスカルゴを頼んで乾杯。周りは生ガキと白ワインの人が多い (魚屋さんで開けてもらいここで食べている)。
隣で白ワインを飲んているおじさんは、ブルゴーニュ惣菜の定番 「ジャンボン・ペルシエ」を買って二つ折にしてパンにはさみ、そのままかぶりついている。ディジョンでは毎年、100年の歴史を誇る国際ガストロノミー市が開かれ、その会場でジャンボン・ペルシエのコンクールが行われるのだそう。
▪️Halles de Dijon (マルシェ):
Rue Odebert/Rue Quentin/Rue Bannelier 21000 DIJON
火、木、金、土の07h-13h
■マルシェを囲むレストラン ■
マルシェの周りにも、いかにもおいしそうなレストランが並ぶ。そのうちのDZ’enviesが、当たりだった! 見かけも上品なジャンボン・ペルシエには、ピクルスとケーパーのピューレ、お皿には、やはりディジョン名物パン・デピスの粉が散らしてあったりする。
▪️DZ’envies :12 Rue Odebert
月〜土 12h-14h(土-14h30) / 19h-22h (土-22h30)
Tel:03.8050.0926
https://dzenvies.com/
■ ふたつ星シェフの川魚料理 ■
Hostellerie du Chapeau Rouge – Restaurant William Frachot
バイクに乗って山の中へオリガノ、ミントなどの香草や野菜などを採りに行き、さまざまな香りを嗅いでいるうちに新しい料理のアイデアが膨らむという、レストランWilliam Frachotのシェフ、ウィリアム・フラショさん。最近、海の魚はやめ、地元の川魚が獲れたら 「Partie de pêche en rivière」としてメニューに入れていくことに。運がよければ食べられる。ミシュランの2つ星レストランで、週日の昼メニュー65€、週末は105€〜。4つ星ホテルChapeau Rougeのなかにある。部屋は140€〜。
▪️Hostellerie du Chapeau Rouge
Restaurant William Frachot :
5 rue Michelet 21000 Dijon
Tél:03.8050.8888 水-土、昼と夜
■ 鶏料理 “ガストン・ジェラール” ■
1930年、ディジョン市長だったガストン・ジェラールが、料理評論家キュルノンスキーを家に招くことになった。ジェラール夫人が鳥料理の鍋にあやまってパプリカを入れてしまい、そのミスを隠すために白ワイン、コンテチーズ、クリームなどを加えたところおいしかったので市長の名を冠したという伝説があるディジョン料理。ブレス産の鶏肉にブルゴーニュワインとマスタード、コンテ、クリーム、パプリカなどが入る。写真は、旧市街のレストラン、La Fine Heureのもの。
★フィリップ3世の塔の上で乾杯!
ディジョン観光局は夏季の毎金・土、18h30と20時に、ブルゴーニュ公フィリップ3世の塔の上でのアペリティフを企画。46mの高さの眺望に乾杯!日没が眺められる可能性もある。
1時間15分程度、20€、要予約。
Office de Tourisme de Dijon Métropole
11 rue des Forges 21000 Dijon
Tél:03.8044.1144
www.destinationdijon.com
▪️ Restaurant L’arôme
2 rue Jean-Jacques Rousseau 21000 Dijon
Tél:03.8031.1246 水〜土 12h-13h30 / 19h30-21h
www.restaurant-aromedijon.com