Jadran Duncumb
“J.S.Bach-Works for Lute”
夜がふけて、リュートの音楽を聴くと、疲れがスッとひいて、心におだやかさが戻ってくる。リュートは、ギター同様に撥(はつ)弦楽器で、ルネサンス時代には独奏あるいは独唱曲の伴奏として活躍。バロックになって、チェンバロとともに室内楽や協奏曲の通奏低音としても欠かせない楽器になったのだが、バロックが衰退するとともに姿を消してしまう。ギターの明るい響きとはちがった、リュートのやや沈んだ気品ある音色に出会いたい人には、今年になってリリースされた、この楽器の若手の名手、ジャドラン・ダンカムによるバッハのリュート曲集がおすすめだ。
ト短調の組曲から聴いてみよう。弦のふるえが重なり合いながら生まれていく和声の豊かさ、抑制のきいたメランコリー、内省的な語り口…。マイクを近づけた秀逸な録音で、指が弦をこする音や、粗々しいまでのアタックも聞かれ、小さなサロンで間近で聴いているような臨場感が素晴らしい。
リュートの演奏にはほとんど素人だったバッハだが、だからこそ、リュートの繊細緻密な小宇宙を軽やかに超えて、心に直接訴えかけてくる音楽のドラマを書くことができたのだろうか。(真)
Audax Records/17€前後