シャトレ地区を歩けば見えてくる四角いノッポの建物。後期ゴシック・フランボワイヤン様式のサン・ジャックの塔だ。建立時期は1509年から1523年の間というから、約500年もこの場所に佇んでいることになる。修復工事やコロナ禍で長らく門戸を閉ざしていたが、この夏パリ市は一般客向けのガイドツアーを再開させた。
観光スポットが多過ぎるパリではやや知名度が低めな建物ではあるが、国の歴史的文化財に指定され、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路の出発点としてユネスコ世界遺産にも登録もされる由緒正しき建物だ。絶景を心ゆくまで堪能できる穴場である。
塔の下ではパスカルの凛々しい彫像が来場者を迎える(下の写真)。伝説によると、彼は1648年にこの塔の上で空気圧の実験をしたとされるのだ。しかし後年、この説の信ぴょう性は揺らいでいる。実際に実験をしたのは左岸にあった彼の家に近い同じ名前の別の塔、という新説があるからだ。現在のところは「像を先に作ったもの勝ち」ということで、まだこの塔は「パスカルゆかりの地」の看板を堂々と掲げている。
地上52メートル、ビルで言えば17階建て。石段は全部で300段あるが、これが想像以上に手強いものだ。10歳未満の子どもや心臓に問題のある人は禁止というのも頷ける。筆者の場合は30段ほど登ったところで、「あと10倍も残ってるのか!」と気が遠くなった。運動不足の人は覚悟した方が良いだろう。くれぐれも歩きやすい靴を選ぶこと。鉄の手すりもあるので無理せず登ってみてほしい。
塔が建つのはセーヌ川近く。町の中心部から視界を遮るものがない360度のパノラマを楽しむのに、この塔以上の絶景スポットはそうはない。パリの屋根や伸びる大通り、ポンピドゥ・センター、エッフェル塔、修復作業中のノートルダム大聖堂……。この塔の上に鎮座する彫像は聖ヤコブ、天使やライオン、牛など。ガーゴイルたちも虚空に首を伸ばしている。いつもパリの絶景を眺めていられる彼らがちょっと羨ましい。
石の壁には落書きのようなアルファベットや数字が彫り込まれている。なぜか1800年代の数字が多い。これは塔の歴史と関係があるようだ。もともとこの塔は、中世に勢力を誇った肉屋同業組合が建てた教会サン・ジャック・ドゥ・ラ・ブシュリー(肉屋の聖ヤコブ)の鐘楼であった。しかし教会本体は革命時に没収され、1797年には採石場として売られ破壊された。かろうじて鐘楼部分は残ったが以後は荒れ果て、サインを彫り込む不届き者も侵入しやすくなったようだ。
1836年にはパリ市が購入、19世紀末には建物内部が気象観測場にもなった。この観測場のあったスペースは当時のまま保管されている。ステンドグラスの光のもと、壁は剥がれ、謎のアルコールの瓶が並ぶ。時計の針が止まったような不思議な空間だった。(瑞)
見学ツアー(50分)、12€/10€(18歳未満、学生)
金・土・日の10hから17hまで一時間ごとに出発。
予約はこちらから。次回は8月20日(金)。
https://www.desmotsetdesarts.com/visites-guidees/visites-guidees-paris/visite-de-la-tour-saint-jacques
毎月一度、写真アトリエも開催。22€/15€
https://www.desmotsetdesarts.com/visites-guidees/visites-guidees-paris/atelier-photographique-vue-a-360-sur-paris
Tour Saint-Jacques
Adresse : Square de la Tour Saint-Jacques, 75004 Parisアクセス : Châtelet / Hôtel de Ville