Fraises, chantilly au mascarpone
八百屋の店先に、小さなボール紙の箱に盛り上げられたイチゴが並んでいる。食べるその日に買ってきてデザートにすれば、喜ばれること間違いなしだ。これまで、パイ生地をから焼きしてからカスタードクリームを敷いてイチゴを美しく並べたタルトや、大きめに焼いたシューにホイップクリームをはさみイチゴで飾ったシュークリームなどを紹介してきた。今回は、火を使わないシンプルさにもかかわらず、見栄えのするデザートです。
マラ・ド・ボワなど、香りのいいイチゴを買ってくる。飾り用に形のいいものを4個とっておき、残りは六つから八つに切り分けてボウルにとり、砂糖を大さじ1杯振りかけて、やさしく混ぜ合わせる。 バニラビーンズは、黒い種をかき出す。 スーパーでも簡単に見つかる、ベルギー名物のシナモンの香りがするビスケット、スペキュロスspéculoosは粗く砕く。
次はホイップクリームだが、液状の生クリームだけでは腰が弱く、置いたイチゴが沈んでしまうので、イタリア産のフレッシュチーズ、マスカルポーネも加えたものにする。どちらも冷蔵庫で冷やしておく。1時間ほど前から冷凍庫に入れておいたボウルと泡立て器をとり出し、生クリームとマスカルポーネをボウルに入れる。泡立て器で、空気を混ぜ入れるように勢いよく泡立てていき、倍ほどのかさになったら砂糖とバニラを加える。ふつうの粉砂糖ではなく、sucre glaceという粉末状のきめ細かい砂糖を使います。さらに泡立てていくのだが、なかなかの力仕事。ハンドミキサーがあれば大いに楽になる。泡立て器からクリームを落としてみて、それがそのままの形で残るようになったらでき上がり。
イラストのような広口のグラス(4個)の底に、イチゴの1/3の量を敷き、砕いたスペキュロスをのせ、クリームの半量を加える。さらに残りのイチゴを置き、残りのクリームで覆ったら、食べる直前まで冷蔵庫に入れておく。さあ、デザートの時間だ。仕上げにスペキュロスの粉末を散らし、飾りのイチゴをそっと置き、食卓へ。歓声と拍手!(真)
4人分:イチゴ600g、乳脂肪分30%の液状生クリーム230g、マスカルポーネ150g、バニラビーンズ1本、砂糖大さじ1杯、粉末砂糖35~40g、スペキュロス8枚。
Fraise
3月半ばくらいから、スペイン産の大きなイチゴが出まわるが、残念ながら甘みや香りに欠ける。安めなので数キロ買ってジャムにするといい。四月末ごろからガリゲットGariguette (写真)が出てくるが、1977年に国立農業研究センターで誕生したという新顔だ。小さめで、やや細長く、明るい赤い色をしたイチゴで、香り高くジューシー、適度の酸味があり、イチゴの生産量の約20%を占めるという、フランス人に一番人気のイチゴだ。6月半ばすぎになると、マラ・デ・ボワMara des boisが登場。甘く、野イチゴを思わせる香りがあり、ファンが急増中だ。
Spéculoos
ベルギーのカフェでコーヒーを頼むとついてくるのが、スぺキュロスという小さなビスケット。サクサクッとした歯ざわりやシナモンの香りがコーヒーとじつによく合う。パリでもたまに、スペキュロスをつけてくれる店もあるけれど、一般化すればいいのになあ、と思う。もともとはノエルと縁のあるビスケットで、いろいろな動物や聖人をかたどったものであったらしいが、今はふつうの長方形。Lotus社のものが名高い。最近は、スペキュロス風味のスプレッドやアイスクリームにも人気が出てきている。
Vanille
濃密な香りを持つスパイス、バニラは、さまざまなデザートやカスタードクリームに欠かせない。表面につやがあってしなやかなバニラビーンズを選びたい。よく切れるペティナイフの刃先で、ビーンズを縦に切り開き、中にみっちりと詰まっている黒く微小な種を、こそげるようにかき出す。ビーンズのさやを捨ててはいけません。粉砂糖と一緒にびんに詰めてふたをしておけば、そのまま香り高いバニラ風味の砂糖sucre vanilléになる。市販されているバニラ風味砂糖は安上がりで便利。ふつう一袋7グラムです。