パリの北東に広がるセーヌ・サン・ドニ県。2005年にはクリシー・ス・ボワ市で、警官に追われたアフリカ系の少年が変電施設に逃げ込んで感電死し、国を揺るがす暴動に発展した。1980年生まれのマリ系フランス人ラジ・リは、その隣町モンフェルメイユで育った監督。自身がよく知る郊外が舞台の本作は、カンヌ映画祭で話題を呼び審査員賞を獲得した。現在は米アカデミー外国語映画賞のフランス代表に選出されている。フランスは1992年のレジス・ヴァルニエ監督『インドシナ』以来受賞に縁がなく、そろそろ栄えあるオスカー獲得に期待がかかる。
ステファン(ダミアン・ボナール)は地方都市からモンフェルメイユへ転任してきた若手警官。犯罪対策班に配属され、口の悪い先輩と街を巡回しながら荒れた郊外を発見してゆく。民族や宗教問題も絡まり、コミュニティー間の緊張状態が続く。先輩警官は威圧的な態度で住民に接するが、ステファンは心中複雑だ。ある時、少年がサーカス団の動物を盗み騒動に発展。警官が発射したゴム弾は少年を直撃するが、その様子を別の少年が撮影していたことから状況は泥沼化する。ベトナム戦争のように双方を疲弊させる長期戦に入る。
タイトルは舞台が一部重なるヴィクトル・ユゴーの有名な同名小説から。文豪の時代から150年を経ても、モンフェルメイユは新しい時代の「レ・ミゼラブル(惨めな人々)」を生み続ける。「長時間低賃金で働かされる警官も住民も、皆レ・ミゼラブル。見捨てられた土地なんだ」とリ監督は憤る。
とにかく本作に充満するエネルギーの熱量は圧巻。だが、負のエネルギーばかりではない。映画の冒頭、サッカーW杯優勝に沸き立つ郊外の少年たちの高揚感は、スポーツファンならずとも胸熱だろう。稀に見るこの美しい映画の幕開けを見るだけでも、本作を鑑賞する価値がある。若い世代の魂の沸騰と、それにしっかり呼応する監督の意志と熱を帯びた肝の据わったカメラ。2010年代を締めくくるにふさわしい堂々たる「バンリュー(郊外)映画」の決定打だ。(瑞)
11月20日(水)公開。