シャルル・ベルベリアンさん
建築家、シャルロット・ペリアン(1903-99)を主人公にしたバンドデシネ (BD) が今月23日に発売になった。著者はBD・シナリオ作家のシャルル・ベルベリアンさん。今月、ルイ・ヴィトン財団美術館で始まった 「シャルロット・ペリアンの新しい世界」展では70年間にわたるペリアンの仕事が紹介されているが、ベルベリアンさんのBDでは、1940年に日本の商工省(現経済産業省)から「工芸指導顧問」 として招かれ、日本に滞在する40〜42年に焦点があてられている。
ペリアンは東京と大阪の髙島屋で 「選擇(せんたく) 傳統(でんとう) 創造」展を開き、日本各地を旅した。パリのル・コルビュジエ事務所で一緒に仕事をし、ペリアンを日本に招くよう政府に推奨した建築家・坂倉準三や、柳宗理との交友などを通し、ペリアンの人間性が感じられる本になっている。
ペリアンの最初の日本滞在期間を作品にしたのは、「この時期が彼女の人生の転機になるからです。40歳近い彼女はル・コルビュジエの事務所から独立し、ひとりで日本政府から大きな任務を任されました。西洋でも日本でも、女性が重要なポストを占めていなかった時代です」。シナリオを書くためには主人公に変化が起きることが必要だが、日本との「電撃的な出会い」が、ペリアンの人生とデザインを大きく変えたことが、この時期に興味を抱いた理由だという。
時代背景も重要だ。1939年、フランスは戦争に突入した。ペリアンがフランスを発った1940年6月、日本の立場はまだ明らかではなかったが、結局日本とフランスは敵国となってしまう。「二つの文化が出会う時は、一方が他方を押さえつけるようなことはしません。でも政治は相手に勝とうとする。どうして文化のように融け合うことができないのでしょうか」。世界が野蛮な戦いをするなか、ペリアンは強い意志を持って、西洋と東洋、それぞれのいいところを融合させて新しいものを創り出した。伝統と近代的なものから未来を創造した。そんなペリアンに惹かれた。
初めて自分の事務所を訪ねてきたペリアンにル・コルビュジェが「ここでは刺繍はやらない」と言ったエピソードが紹介されているが、日本にいるペリアンのもとをル・コルビュジエがカラスになって訪れる設定も面白い。「ル・コルビュジエと仕事をしたら、その後も常に彼のことが頭にあると思うんです。彼はシャルロットの日本でのポストを得たかっただろうし、いっぽうシャルロットは迷いがある時などは、彼なら私よりうまくやっただろう、と思ったはず。そんな会話を描きたかった」。
シナリオは日本で書き上げた。柳宗悦の設立した日本民藝館、帝国ホテル(ペリアンが宿泊した頃の面影はないが)などを訪れた。縁側のある畳の部屋でスケッチしたり、伸びをするペリアンは、長時間座って仕事をする自分と重なる。風景を日本の画家のように線で描いたり、(新旧を融合させるペリアンのように)タブレットと水彩を併用して描いたのが本作だ。構想から1年間、「ペリアンと一緒だった」から、上梓してほっとしながらも少し寂しい。今度は読者がペリアンと日本での時間を過ごす番だ。(集)
Charles Berberian
ギリシャ人の母、アルメニア人の父のもと、バグダッドで生まれる。10歳までレバノンで育ち、その後フランスで美術を勉強する。1983年から共作を続けるフィリップ・デュピュイとふたり、2008年のアングレーム国際漫画祭グランプリを受賞。
◎「シャルロット・ペリアンの新しい世界」展 – Le monde nouveau de Charlotte Perriand
2020年2月24日まで。
Fondation Louis Vuitton:
8 av. du Mahatma Gandhi 75116
火休、11h-20h、金は-21h。16/10€
www.fondationlouisvuitton.fr