「Cercle Immense 巨大な円」、進化する世界遺産。
「ルドゥは理想郷を構想したと言われますが、私はとても現実的な人だと思います。製塩所の敷地内に労働者の住宅を配したのも移動の効率を上げ、より多く塩を造るため。工場が100年以上稼働したのも生産効率がよかったからこそ」と語るのは、製塩所ディレクター、ユベール・タッシー氏。「兄弟愛に満ちた社会を願うとか、皆が快適な住居を得られるように古い家屋を壊す、というのも現実的だと思うのです。とはいえ製塩所だというのにヴェルサイユ宮殿のように王の道を作り、街路樹を植えるなど、驚くべき人です。結局、王は一回も来ませんでしたが」。
タッシー氏は2019年、ルドゥの遺志を継いで未完の半円を今の時代なりに解釈して完全な円形にするコンペを開催した。その名は 「Un cercle immense 巨大な円」。もちろんルドゥの構想のように建物を加えることは許されない。庭園を加えることで半円を補うという、ランドスケープアーキテクトのジル・クレマン氏の案が選ばれ、6月に完全な円となってオープンした。これでアルケスナンは唯一、登録時から形を変えた世界遺産の例となった。ガーデン・フェスティバルでは若い人たちがこれからの時代に即した庭づくりを実験・提案したり、かつて製塩所労働者が耕した畑も様々なテーマの庭になった。周辺の学校の子どもたちが庭づくりに参加する場ともなっている。
タッシー氏はまた、古楽の巨匠ジョルディ・サヴァールやピンクフロイドのギタリスト、デヴィッド・ギルモアを招いてのコンサートや、現代美術展開催などでアルケスナンの知名度を上げ、来訪者数を9万人から13万人へと増やした。また、イベント開催だけではなく、ニースの国際クラシック音楽アカデミー所長を27年間務めた経験と人脈を生かし、音楽アカデミー設立を準備している。製塩が行われていた建物内には録音スタジオが4室あり、コンサートホールが建設中。一流音楽家のレッスンをネットで世界へ配信する予定だ。
世界遺産とはいえ過去礼賛にはとどまらず、外観こそは保存しながら、現代の息吹きやコンセプターの考えを取り込んで新しいものを創り続けるのが、またフランスらしい。(編)
★製塩所内にある、軽食のとれるカフェ、製塩所すぐ近くの、すてきなインテリアと愛のこもったお料理のメゾンドット(民宿)情報は、後日ネットに掲載します。
Saline Royale d'Arc-et-Senans
Adresse : Grande rue, 25610 Arc et Senans , FranceTEL : 03.8154.4500
アクセス : sncf Arc-et-Senans から徒歩3分
URL : http://www.salineroyale.com
季節によって開館時間が違うので要確認