「白い黄金」塩の生産。
塩は、冷蔵庫が実用化されるまで (それ以降もだが)食品の保存に欠かせないもので、フランスでは中世から革命で廃止されるまで、塩税(ガベルgabelle)は国にとって重要な収入源だった。
フランス東部フランシュ=コンテ地方は地下に岩塩の鉱脈があったため、塩水用の井戸がサラン=レ=バンやモンモロなどに点在し、古くから塩づくりが盛んだった。海水から天日干しで塩を得るのとは違い、ここでは大鍋の塩水を大量の薪をくべ沸騰させて水分を蒸発させていたため近隣の木材が枯渇し、遠くから木材を輸送するコスト増で採算が合わなくなってくる。そこで1773年、ルイ15世はフランシュ=コンテ地方の製塩所監視官クロード=ニコラ・ルドゥ(1736 - 1806)に設計の白羽の矢を立てた。
アルケスナンは、北はショーの森、南はルー川に面し、燃料の確保と交通の便があり、さらに当時最大の取引先であったスイスにも近いことから選ばれた。ルドゥは監視官としての経験から、すでに新しい製塩所の構想を始めており幾何学形と古典主義的な円柱を配した野心的な案を提出したが (図1)、工場建築には過剰な意匠と技術的問題などから却下され、計画を見直すことになる。こうして提出されたルドゥの第二案は、円形の中心に所長宅を配置し、その両翼に製塩工場、さらに円周上に樽製造と鍛冶場 (塩水を沸騰させる大鍋のため)、労働者住宅を設け、入口に守衛の詰め所を設置して塩の出入りを厳しくチェックするというもの。全体を囲う外壁と建物の間は労働者が使える畑とし、敷地内でほぼ自給自足の生活を送られるように考えられた。当初はさらに灯台や娯楽施設なども考案されていたが、結局予算の都合で、半円だけで建設された(表紙)。
ルドゥは第一案から職住一体の共同体的工業都市を構想していたが、現実に求められていたのは効率的な製塩と貴重な塩の管理だった。新興ブルジョワジーと資本主義の黎明期において、労働者の権利、住環境の改良などの優先順位は高くはなかったのだ。
アルケスナンの理想都市構想 (ショーの理想都市 - 右ページ図2)は、ルドゥが革命で投獄された後、獄中で製塩所を中心に未完に終わった部分を含めて再構想し、1804年に発表されたものだ。彼自身の建築論確立には、革命前と後の社会背景、新しい価値観の台頭など様々な要素が関わりあっている。理想郷こそ実現しなかったが、 アルケスナンの建築物はルドゥの建築思想を体現した現存する数少ない建物だ。とくに所長宅ファサードの独特の円柱やエントランス、塩採掘現場の洞窟を模した装飾(写真下)など、随所に新古典主義、幾何学信仰、神秘主義などのルドゥ独特の表現を垣間見ることができ、革命期のイマジネーションにあふれた建築家の実作を製塩の歴史と共に堪能できる稀有な世界産業遺産である。
Saline Royale d’Arc et Senans
Grande rue 25610 Arc et Senans
Tél : 03.8154.4500 www.salineroyale.com
13€a/9.50€ (16〜25歳)/8€(6-15歳)。
+3€でガイドツアー参加可。7、8月は: 9h/19h (時期により異なるので要確認)。
a製塩所の建物の一部はホテルに改装されていて、宿泊も可能。カフェやショップは開館時間に同じ。
● パリからはBesançons、Dole、Dijonなどで乗り換えてArc-et-Senans駅下車。100m。
● おすすめ!民宿情報はovninavi.comに。
Saline Royale d'Arc-et-Senans
Adresse : Grande rue, 25610 Arc et Senans , FranceTEL : 03.8154.4500
アクセス : sncf Arc-et-Senans から徒歩3分
URL : http://www.salineroyale.com
季節によって開館時間が違うので要確認