現在公開中の『La Tortue rouge』は、スタジオジブリが初めて外国人監督を起用した話題作。先のカンヌ映画祭では「ある視点」部門特別賞も受賞。カンヌにはオランダ人のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督と鈴木敏夫プロデューサーが参加した。
無人島に漂流する男がひとり。筏を作って脱出を試みるのだが、不思議な力に捉えられ島に戻されてしまう。孤独な男の前に現れるのはカニや鳥、オットセイ、音楽隊の幻影、そして大きな赤いカメ。このカメとの出会いで物語に光が射し始めるが、その先は見てのお楽しみ。
鈴木Pは「人生を丸ごと描いている。特に女性が偉くて男性はついでに生きているっていうか。物事の本質を突いている」と表現。
本作は10年前にジブリが同監督の短編アニメ『岸辺のふたり』に感銘を受け、長編制作をオファー。国境と言語を超えたコラボレーションが始まった。
「手紙交換や話し合いを重ね、信頼関係の中で作業が進んだ」(監督)。だが脚本を書いて2年後に東日本大震災が発生する。「津波のシーンはデリケートだから私は変えることを提案。だがジブリ側は『自然の猛威を尊重の念を込めて描くのだから残すべき』だと。人間は自然の一部で、自然に生かしてもらっていることを本作で伝えたい」(監督)。
この世を慈しむような繊細な自然の描写や生き物の動きの数々もジブリらしい。「ジブリのカラーは考えなかったが、いろんな方からジブリらしいと。言われてみればそうかな」(鈴木P)。原初的な感覚に訴えてくる言葉いらずの80分の映像詩。
夏に一本しか映画が見られないのなら迷わず本作を!(瑞)