韓国のホン・サンス監督の映画が大好きだ。最新作は昨年のロカルノ国際映画祭で金賞を獲得した『Un jour avec, Un jour sans』。映画監督のハム・チュンスは、自作の上映とトークに呼ばれてスウォン市にやって来る。町の公園の中にある旧宮廷で時を過ごしている時に、地元の若い画家、ユン・ヒジョンと出会い、彼女のアトリエを訪ね、夕飯も一緒にすることになる。その後、彼女がもともと行く予定にしていた友人宅でのホームパーティーにも付いて行く。そこでしこたま飲んだチュンスは…。このシチュエーションを俳優たちは2度生きる(演じる)2部構成の作品だ。同じ設定の物語を2回見せられて退屈するかというと、まったく逆。面と向かって口にはしないが、惹かれ合っている男女の微妙なやりとりのバリエーションがむず痒い (?)。男は大体ずるい。たぶんこの映画監督は所帯持ちなのではないか? 旅先のアヴァンチュールに過ぎないのではないか? 女もそれは察しているに違いない。でも、ちょっと魅力的な中年男性に賭けてみてもいいかなと心が揺れる。ラストは2パターン用意されている。それらは一種のオチというかオマケというか観客へのご褒美だ。
ホン・サンスの映画を観ていると、映画は起承転結の物語より、あるシチュエーションを生きている(俳優が演じている)瞬間瞬間こそが面白いのだとつくづく思う。だから筆者は最近、物語だけを追ってシチュエーションを生きていない映画にはすごく退屈する。本作に限らず、同監督の映画の枠組みはいつも似たり寄ったり。主人公の男は映画監督(監督本人の自嘲?)という設定がほとんどで、その男がふとしたきっかけで出会った若い女性と時を過ごすことになるのだ。その時の流れが映画になる。俳優選びもすごく良くて、男は冴えなそうでいて気になるタイプ、女は普通の美しさが心地よい感じ。96年『豚が井戸に落ちた日』で監督デビューしたホン・サンスは、この19年間で17本の作品を発表した多作な監督だが、彼の次回作がいつも待ち遠しい。
この次回作を楽しみにする感覚は、かつて三度のメシより好きかもと思ったエリック・ロメールの新作を観る喜びと共通している。二人ともシチュエーションを生きる(演じる)俳優を撮る監督だ。ロメール作品には、そこに物語構成上のちょっとした日常的なスリルとサスペンスが加わっていて、よりわくわくしたのが懐かしい。(吉)