人の背丈を越え生い茂るサトウキビの畑。その合間を縫うように伸びる一本道。病床の息子を看取るため、17年ぶりに帰郷する男アルフォンソが歩いてくる。祖母と息子夫婦、そして小さな孫息子は、かつて家を捨てた男を複雑な思いを抱えて待つ。一家の再生のドラマが、今静かに動き出す。
監督は87年生まれのコロンビア人セサル・アウグスト・アセベド。監督の故郷である西部バジェ・デル・カウカ県の乾いた自然を舞台に、卒業制作として発案された企画。昨年のカンヌ映画祭批評家週間に選出され、ジム・ジャームッシュ、ジャファール・パナヒ、河瀨直美ら多くの才能を発掘してきた新人賞カメラドールを獲得した。2011年にはアルゼンチン人パブロ・ジョルジェーリ監督も同賞を獲得しているが、近年南米の作品が世界の映画祭で定期的に存在感をアピールしているのは頼もしい。
映画は時に “地球のポストカード ”のような働きもする。馴染みのない異国の世界の便りを、驚きとともに運んでくれるのだ。本作では南米の農村が描かれるが、ここには “青空と緑のサトウキビ ”といった陽気なイメージはない。度重なる焼畑で灰が宙を舞い、火山灰のように辺りを灰色に染めゆく“陰”の世界が広がるばかり。農民は搾取され、肺を冒された息子は、閉め切った部屋で寝たきり。だがこの厳しい世界にあっても、故郷を離れられない祖母がいる。映画は家族の葛藤のドラマから幕を開け、やがて土地と人間の関係という普遍的かつ現代的なテーマに足を踏み入れる。演出にぎこちなさが残るようで、そのぎこちなさは人間を丁寧に描こうと、しかと踏ん張る若い監督の誠実さと同義にも見えてきた。(瑞)