ヴェルヌは、小さな書斎から夢を羽ばたかせた。
冒険小説の傑作『海底2万里』、『地底旅行』、『80日間世界一周」、『十五少年漂流記』などを生み、SFの父との呼ばれるジュール・ヴェルヌ(1828-1905)。1872年から、夫人の故郷アミアンを創作の場として、執筆の日々を過ごした家には、寝室、編集者の待ち部屋…屋根裏部屋の書斎は、ヨットを持ち航海が大好きなヴェルヌだっただけに操舵(そうだ)室を模している。そして一階には、当時、文化サロンとしてにぎわった雰囲気が残る。
Hetzel出版社から出た装丁の美しいオリジナル本が展示され、19世紀末の東洋趣味的内装が面白い。また作家であるだけでなく、アミアン市の議員として、またアリアンス・フランセーズ創立メンバーとしてのヴェルヌの一面を知ることができる。最上階かららせん階段を下る出口の壁には、植民地時代の地図が展示してあり、植民地の呼称を通じフランスという国、そしてフランス国民が現地の人々をどんな視点で見ていたか想像してみたい。ヴェルヌの物語は時代を越え舞台や映画、アニメとしてリバイバルされ、それらの資料も豊富に展示。サロンでは音楽会、朗読会といった催しが、町の文化週間などに合わせて行われている。
彼の社会思想と時代状況をその多くの資料から垣間みることができる一方、ヴェルヌが想像した気球や月への旅など未来のイメージは、時を経て現実のものとなり、ヴェルヌが作中で狙った風刺はそのまま現代の社会批判へとつながっている。
アミアン観光で外せないのが、フランスで一番高く壮麗、またユネスコの世界遺産に登録されているアミアン大聖堂。内部、外部を問わず、至る所に配置された宗教的モニュメント、ステンドグラス、建築的要素どれをとっても圧倒される。中でも外陣の中腹に位置する八角形の迷路になった舗床(ほしょう)②。これは巡礼によって神に近づく道としての象徴であり、また聖堂を天国として捉えたストーリー性を表現。時間があったらぜひ2階に上がり床全体を眺めたい。聖堂の西側の道には堂内の装飾に施されている植物が、実際にプランターに栽培されており、聖堂内のどの場所に描かれているか説明されている。その大聖堂前の広場parvisでは、今も巡礼者がひざまずいている。その姿にアミアンの歴史の深さが感じられる。(麻)
ナダールが 撮ったヴェルヌの ポートレート。
1889年ジュール・ベルヌによって 落成式をあげたアミアンのサーカス小屋。
舗床(ほしょう)