個性にあふれた生活環境がそろっている。
文学好きの青年が、アミアンの中心部に開店した古本ティーサロン〈Chapeau melon et piles de livres (メロン帽と本の山)〉で本を物色しつつ、紅茶をすすっていると、隣の席のご婦人たちが「600平米は小さいわ」などと話に興じている。気になって聞き耳をたてていると、土地つきの家を買おうという教師たちらしい。店を出しなに不動産屋の前を通って納得した。1200平米の土地つきの一軒家が23万ユーロという物件もある。手の出ない買い物ではない。
パリの家賃は高く、子供のいる若いカップルなど市内に住むのは現実的にきびしい。たとえ郊外でもRERからバスに乗りついで、などというのもざらだ。ならばどこに住めばいいのか? かなり思い切った方法だが、地図の上にパリ中心とした100キロ圏の円を描いて、円周の近くにある県庁所在地で、駅が市の中心にある町を探すといい。
家賃もさることながら、地方都市に住む醍醐味は、個性にあふれた生活環境だろう。アミアンの魅力は歴史と緑の多さ。市の北西には公園、北東は広大な湿地帯がひろがっており、ジョギングをする人やVélib’のアミアン版、Vélamでサイクリングを楽しむ人も見られる。夏ともなれば観光と保養をかねてオランダ人やイギリス人がアパートや家を短期で借りて滞在する。
あか抜けているようだが、押しが弱い。アミアン子の気質の例として、ロンドン=パリ間の通過駅の役目をリールにとられたユーロスター争奪戦がよく引き合いに出される。おとなしい優等生。小さな町なのに文化レベルが高い。ジュール・ヴェルヌがここで一生を終えたのは有名だが、社会党出身のドメイリィ市長がアミアン大学の学長もつとめた世界的な化学者だったり、飲み屋街でもある運河沿いのサン=ルー地区に、日曜はもちろん、23時半まで店を開けている書店〈Librairie du labyrinthe〉があったりする。コンサートなどはもちろん、週末はいつも何かイベントがある。
アミアン=パリ間はTERとIntercitéという快速列車で結ばれている。毎朝7時ごろの列車は通勤のサラリーマンたちであふれる。所要時間は東京都内で働く人の平均通勤時間とおなじ約1時間ほど。ただ満員電車ではなく、折りたたみ式のテーブルがついた座席にすわってゆったり通勤ができる。終電を逃さないために仕事やアフターを22時くらいで切り上げなければならないが、一日2時間の読書時間を確保するのも悪くない選択だ。ヴェルヌも言っている、「ここはわずらわしい喧騒ぬきに、パリの影響を享受するには程よい近さだ」と。(康)
男のマリオネットの方が、アミアンの町のマスコット、 ラフルールLafleur。飲んだくれで怠け者、 得意は金持ちに足げりをくわせること。
Vélib’のアミアン版、Vélam