リモージュ出身の若いギター奏者、リシャール君は料理も上手で、「食べに来ない?」と誘ってくれる。皮の下にニンニクの薄切りを差し入れてからローストしたチキンとか、アルジェリアから引き揚げてきたおかあさんから教わったというクスクスとか、ホタテ貝入りのリゾットとか、レパートリーも広い。その彼が「これは、リムザン地方に古くからあるお菓子。簡単に作れて素朴なおいしさ」と焼いてくれたのが フロニャルド。クラフティの親戚で、入る果物は、この地方名産のリンゴがふつうだが、ナシでも干しブドウでもいいとのこと。
まず深めの型にバターをしっかりと塗る。そして生地の準備。なんとリシャール君は小麦粉や砂糖を計ったりしない。「だって、昔は家庭に秤(はかり)なんてなかったんだから」。大きなボウルに、卵4個を割り入れて泡立て器で丁寧にほぐす。ここへ小麦粉を、やはり泡立て器を使って少しずつ混ぜ入れていき、かなり固めの生地にし、砂糖を大さじ3杯、塩ひとつまみを加える。ここへ、全乳lait entierを少しずつ混ぜ入れていき、クレープ生地よりやや固めになったら、ラム酒を大さじ2杯加える。「コニャックでもいいよ」。これで生地はでき上がり。「バニラビーンズがあったら、半本分の種を加えてもいいけれど、素朴さがなくなるね」。このへんでオーブンの目盛りを210度に合わせて点火。
リンゴは、皮をむいてから四つに切り分けて芯をとり、それをさらにくし形に、二つ、三つに切り分ける。「あんまり薄くない方が果物の味が残ってうまいんだ」
型に生地を流し込み、その上に、リンゴを、タルトのようには重ねずに並べていく。そして熱くなっているオーブンへ。「35分ほどで表面にきれいな焼き色がついたら完成。でも辛抱辛抱。少し冷めた方がうまいんだ」ということなので、きれいに焼き上がったフロニャルドに 砂糖を振りかけ、30分待った。
生地がシンプルであるだけに、リンゴの柔らかな風味が口の中に広がっていく。(真)
リンゴ4個、バター少々
生地(小麦粉、砂糖、牛乳は大体の量ですが):卵4個、小麦粉100G、砂糖大さじ3杯、牛乳500cc、ラム酒大さじ2杯、塩ひとつまみ
●Rhum
フランスで一番多く飲まれている蒸留酒は、ラム酒。ラム酒の産地である海外県マルティニーク島やレユニオン島で日常的に飲まれているが、フランス本土でも、寒くなってのどが痛い時など、ラム酒を熱湯で割ってレモンの搾り汁と砂糖を加えたグロッグがよく飲まれる。最近は若い人の間で、ラム酒にミントの葉、ライム、砂糖を加えて、ソーダ水(ペリエ)で割ったモヒートが大人気。ラム酒の消費量は増すばかりだ。
ラム酒はサトウキビを原料として、主に西インド諸島で作られている。大きく分けて、サトウキビから砂糖を搾りとった後の残りかすや糖蜜などを発酵させてから蒸留したrhum industrielと、サトウキビの搾り汁のみを発酵させて蒸留したrhum agricoleに分けられる。前者は「バカルディ」や「クレモン」など大メーカーのラム酒で、市場の90%以上を占めている。各社それぞれ独特のブレンドで、一定の風味が保たれるようになる。
rhum blancと呼ばれる透明なラム酒は、主に、ダイキリやキューバ・リブレなど様々なカクテルの材料として用いられる。オーク材の樽の中で3年以上熟成されたラム酒は濃いこはく色で、rhum vieuxと呼ばれ、年代物のコニャックにも負けない極上の食後酒。
わが家にも、1リットル入りで50度以上のrhum agricoleが常備されている。仕事から帰ってのどの渇きをいやすロングドリンク、といってもモヒートは手間がかかる。そこで、大きなグラスにラム酒を注ぎ、リンゴジュースをその倍注ぎ、さらにペリエで割って、氷を足すだけ。ラム酒に、冷えた濃いめのコーヒーと砂糖を入れ、牛乳で割るのもうまい。のどの渇きが止まったら、小さなグラスに、市販のサトウキビのシロップsirop de canne少量と、ライムの搾り汁を入れ、ラム酒を注ぐだけのti’ punchだ。
●La Rhumerie
いろいろなラム酒やそのカクテルを味わいたくなったら、サンジェルマン・デプレ界隈の老舗的存在のこの店へ。場所柄、観光客も多く、サービスが遅いのが少々難だが、雰囲気は満点。お昼前に、貴婦人がラム酒をあおっていたりする姿を見かけたりしたものだ。おつまみには干ダラのかき揚げaccras。9h-02h。無休。
166 bd Saint-Germain 6e 01.4354.2894
M°Saint-Germain-des-Prés