フランスの19世紀文学を代表する作家のひとりに、ジョルジュ・サンドがいる。生涯を通して精力的に執筆活動を続け、実に100作におよぶ小説や戯曲を残した。豊かなイマジネーションで彩られたそれらの作品は新聞で連載され、当時の民衆をとりこにしたという。また、スタンダールやフロベール、さらにドストエフスキーといった同時代人の作家仲間からも熱烈な支持を受けた。バルザックなどは、『ベアトリックス』という小説に、サンドをモデルにした知性にあふれる女性作家を登場させているほど。
好奇心が旺盛だったサンドは、執筆のかたわら、自然科学や音楽、政治、トランプ、旅、モードなどにも並々ならぬ興味を寄せた。ミュッセやショパンなどとの華やかな恋愛遍歴でもよく知られているサンドは、閉塞的で保守的だった時代に生きたにもかかわらず、自らの情熱としっかり向き合い、人生をすみからすみまで味わった女性でもあった。もちろん、食べることにも真剣そのもの。その食卓がもっとも輝いていたのは、ベリー地方(現サントル地方)にある城館でのこと。招かれた客たちは、庭でとれたフルーツや野菜、地鶏、ジビエや森のきのこなどに舌つづみをうった。「地産地消(地域生産地域消費)」などという言葉はまだなかった時代だったけれど、こうやって土地でとれるものを皆で分け合って食べるというのは、サンドにとってごく自然の日常だった。貴族の血を引き、召使いや料理人を抱えるような身分であったにもかかわらず、自ら台所に立ってシンプルな料理をつくることにも喜びを覚えていた。特に自慢だったのはジャムづくり。友人にあてた手紙で「コンフィチュールは自分の手でつくらないといけないし、その間少しでも目を離してはいけません。それは、一冊の本をつくるのと同じくらいの重大事なのです。」と書いているほど。(さ)