Travers de porc mijote
先日、Tさんの家に招かれた。チラシ寿司もおいしかったけれど、いっしょに出てきた、とろけそうな豚の煮込みに舌鼓。フランス人のゲストたちも「C’est très bon !」と歓声をあげた。さっそくTさんに作り方を教わりました。
豚肉は、traversと呼ばれる骨付きの脇腹肉(スペアリブ)を1キロ買ってくる。この部分を使うと、脂が適度に混じっているだけでなく、骨からもうま味が出て、おいしく煮え上がることになる。これを骨にそって小さく切り分けましょう。
ボールに肉をとり、しょう油とコショウを振りかけて混ぜ合わせ、30分ほどおいておく。
フライパンに油をとり、熱くなったら漬けておいた肉を加えて炒めていき、まんべんなくきれいな焼き色がついてきたら取り出す。
厚めでできるだけ底広の鍋に油を大さじ2杯とり(ボクはゴマ油も少し混ぜた)熱くする。ここへ熱湯をカップ2杯、しょう油、酒(なかったら白ワイン)、砂糖を加え、少々濃いめの味にととのえ、そこへ肉を加える。ボクは八角anis étoiléも一つ入れた。落としぶたをして、コトコトと気長に1時間半ほど煮込んでいく。Tさんは、コーヒーのフィルターを切り開いて落としぶたがわりにするという。硫酸紙papier suluriséを鍋の形に切って、肉の上からかぶせてもいいだろう。あとは、本を読んだり音楽を聴きながら煮上がるのを待つだけだ。
最後に酢を大さじ1、2杯加え、強火にして、ぐつぐつっといったらできあがり。おいしい煮汁をたっぷり含んで柔らかく煮え上がった肉は、触ると骨から離れてしまいそう。これだけでは野菜不足というのなら、ブロッコリーを色よく炒め上げて添えましょう。(真)
●鹿児島のトンコツ
檀一雄の『檀流クッキング』に、鹿児島のトンコツの作り方が出ている。何度か作ってみたが、失敗なしにおいしくできる。ちょっとボク流になってしまったが、作り方を紹介。
travers de porc 500グラムを切り分ける。厚鍋に油をとり、みじんに切ったニンニク1片と玉ネギ半個をしばらく炒めたら、豚肉を加え、強火にし、少し焦げ目がつくまで炒めていく。半リットルくらいの水を一挙にくわえ、沸騰したらアクをすくい、黒砂糖(フランスなら褐色の蔗糖sucre de canne)少々と焼酎あるいはラム酒などをコップ半杯くらい加え、中火で1時間ほど煮ていく。
肉がとろけるように柔らかくなってきたら、みそを入れる。みそ汁より濃いめの加減です。あとは、コンニャクやジャガイモ、タケノコやシイタケなど、あまり水っぽくならないものを好みで加え、弱火で、煮込んでいけばできあがり。最後にごま油少々をたらして香りをつけたい。(真)
●Travers de porc
豚のあばらの上部肉で、中国人はもちろんフランス人にも、豚肉の中でもフィレ・ミニョンに次いでおいしいところと評価が高い。キロ8ユーロ前後。フランスでは、petit saleといって塩蔵された状態でも売られている。これは塩出ししてからレンズ豆といっしょに煮るのが定番。大きく切ったニンジン、ジャガイモ、長ネギ、フヌイユなどといっしょに煮込んでポテにするのも悪くない。ちょっと辛みをきかせたバーベキューソースに漬け込んでから焼けばスペアリブ。チャーシューのごとくタレに漬け込んでからオーブンで焼くのもうまい。
●硫酸紙 papier sulfurisé
硫酸処理された紙で、ロールになって市販されている。使い方はパラフィン紙と同じ。今回のレシピでは、ハサミでジョキジョキと鍋の形に合わせて切って落としぶたにしたけれど、熱に強いだけでなく、バターや油を敷かなくても食材がくっつかない、というのが最大の利点。ケーキ型の底に敷いたり、シュー生地を置いてオーブンで焼いたり、魚をくるんで包み焼きにしたり、と用途が広い。
●ハーブ・スパイス探検|八角 anis étoilé(badiane)
八角は、中国原産の灌木の実を乾燥させたもので、フランスではその美しい形から「星形アニス」という。香りは、アニス(ウイキョウ)そっくりだが、軽い辛みと甘みを持っている。丸ごと、あるいは小さくくだいたり粉末にして使用。中国料理では、北京ダックやチャーシューなど、甘みをきかせたロースト料理に欠かせない。フランスではパスティスの風味にも一役買っているし、最近は、野菜やケーキの香りづけとして加える人が増えてきた。スーパーなどで小瓶入りで売られているCinq épices(五香粉)にもこの八角が、丁字やシナモンなどといっしょに入っている。