●Ivre de femmes et de peinture 巨匠イム・グオンテクが本作で今年のカンヌ映画祭監督賞を受賞。「今が旬の韓国、ここいらで賞をあげとくか」という映画祭側の思惑が透けて見えるような気もするが、でもいい映画です。芸術家にとって時に不自由な君主制国家の19世紀末の韓国に、女と酒を愛し直情的に生きた実在の画家の姿を描く。すでに98本目という作品数を誇るベテラン監督の語り口は余裕の安定感があるけど、巷にはびこる「このちょっと変わった主人公を愛して!」的な描き方をしていないのはさすが。芸術家であろうがなかろうが、人は生まれて何かの跡を残して、そしてただ消えて行く。それだけのことが当たり前に美しい。そんなことをふと思わされた逸品だ。(瑞) |
|
●Au plus pres du paradis 『Pas Tres Catholique』や『エステサロン/ヴィーナス・ビューティー』の監督トニー・マーシャルが、カトリーヌ・ドヌーヴを演出するとどうなるか、と大いに期待したのだが…。マダム・ドヌーヴは出だしから機嫌が悪い。言い寄る男たちには肘鉄を食らわせ、ひたすらイライラ…。マダムの唯一の慰めは、レオ・マッケイ監督の『めぐり逢い』(1957)で、デボラ・カーとケイリ—・グラントを見てははらはらと涙を流す。映画のようにエンパイアステートビルで恋を成就させるのが夢だが、出張先のニューヨークで彼女を出迎えるのは、ウィリアム・ハート演じるアメリカ人写真家。映画の世界と現実が交差するラブ・コメディーのはずが、名作をストーリーに取り入れようと躍起になったマーシャルが一人で空回りしているような印象を受ける。年を重ね、ふくよかでも美しいドヌーヴが、表面的にしか描かれていないのも残念。(海) |
|
●La chatte a deux tetes ポルノ映画館に出入りするのは、女性の裸目当ての男性たちばかりと思ったら大間違い。この作品で、映画よりも同性目当ての男性客がナンパしあったり、自慰や女装行為に走ったり、性交する場所だったのだ、と開眼。登場するのは老若美醜の違いはあれど男ばっかり、女性といえば入り口を守るおばさんと見回りの婦人警官だけ、見事に男の都である。 監督ジャック・ノロは、処女監督作品『Arri俊e pays』と同じように、自らの過去を振り返る。ノロ自身が演じる中年客と田舎出の若い映画館の上映技師とのやりとりが、若かった自分を懐かしむような思いやりと郷愁に溢れていてとてもいい。題名のla chatteとは女性の性器を指す。『双頭のネコちゃん』は、やはり同性愛主義者だったコクトーの『双頭の鷲』への洒落かしら。(海) |
|