
Justin Taylor “Chopin intime”
『Bach & L’Italie』という傑作アルバムでクラヴサンを弾いているのがジュスタン・テイラーだが、その彼がショパンを弾くというのでちょっとびっくり。
ショパンはジョルジュ・サンドと1838年11月から3カ月間、地中海に浮かぶマヨルカ島に滞在する。その時にプレイエル社から送ってもらったのがピアニーノという小さな縦型のピアノだった。このアルバムでは、テイラーはそれと同型のピアノを弾いている。コンサートホール用グランドピアノのような輝きやダイナミックはないけれど、軽やかでデリケートな響きが美しい。
アルバムは、ショパンの人気曲の一つ『前奏曲第20番嬰ハ短調』*で幕を開く。ピアニーノの高音は耳にやさしく、しっとりくすんだ音色と、感情に流されることのない節度ある演奏によって、ショパンの心の歌が自然にあふれてくる。マヨルカ島で作曲された第15盤『雨だれ』ほか16曲の前奏曲、それに夜想曲やマズルカがはさまれていく。また、ショパンがこよなく愛していたベッリーニの《ノルマ》から、「清らかな女神よ」**をテイラーはピアノ版に編曲して弾いている。
『内輪だけのショパン』というアルバムのタイトルにうなずいてしまう、小さなサロンでサンドや親しい友人たちといっしょに、ショパンの指の動きを目で追っているような気持ちになる。(真)
