欲望と、ラブドール。

アニエス・ジラールさん。

©karym-bagoee

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志乃ちゃん、かおるちゃん、まどかちゃん…。あどけなけい顔の表情や ポーズから、控えめな性格が感じられる、等身大のリアルな人形たち。写真を見ているだけでも、息遣いが聞こえてきそうなほど、なまめかしい。

 

こんな日本の「ラブドール」についての本が出た。著者は人類学者でジャーナリスト、ナンテール大学(パリ第十大学)ソフィアポル研究所准研究員、アニエス・ジアールさん。日本のオルターナティブな性の専門家で、『日本の愛と悦びの事典』をはじめ数々の著書があり、最近ではギメ美術館の春画展のキュレーターも務めた。日刊紙リベラシオンのブログ「Les 400 culs」(*)のファンも多いだろう。日本のSM雑誌では、自らSMを愉しみながら日仏両国の「愛と悦び」を綴ってきた。ラブドールについての新著は3年かけて上梓した博士論文だが、9月に出版早々、サド文学賞に輝いた。

 

9歳のとき、松本零士のアニメ『キャプテン・ハーロック』をテレビで見て日本に興味を持った。顔に傷があり、全身を黒いレザーに身を包んだ宇宙海賊ハーロックにSM嗜好を方向づけられ、ジュネの『薔薇の奇跡』を読みSMに目覚めた。 リベルタン文学(教会や国王権力に批判的な思想を含む18世紀エロチック文学)研究家の母親からは、体と、体の行為に関して言葉を的確に使うよう〈厳格な教育〉を受けた。同時に、大人の世界ではセックスの行為を名称を使わず、描写せず、ぼやかして表現し、読む側の想像を刺激する「ガーゼ」という表現法があることも教わった。

 

頭・ボディ・着脱式の膣(ちつ)、3つのパーツから構成され、高価なシリコン製のもので80万円弱。ラブドールは
「大人のオモチャ」ではあるが、口を大開きしたダッチワイフのような、単なる性的欲求不満解消の道具とは違うという。それぞれ名前をつけられ、下着も服も着て人形を買った人の家に「嫁入り」し、修理が必要な時は「里帰り」。所有者は、理想の女性像を人形に投影しながら、ともに語らい、暮らす。

 

「人はよく『セックスは他者との出会い』と言うけれど、私たちはいつもパートナーとセックスしながら、幻想を相手に投影している。ラブドールはそれと同じで、自分の幻想を投影するオブジェです」。メーカーによっては生身の女性に型をとらせてもらって作るから「手に届きそうな理想」像となる。

 

ジアール博士はラブドールの起源を求めて井原西鶴の浮世草紙、『今昔物語』、『日本霊異記』まで時代を旅し、人形と人間の好色譚を紐解く。江戸時代のダッチワイフともいわれる「吾妻型人形」についての最古の文献を探し出し、訳すのに苦労したという。筆や針までに魂が宿るとし、捨てずに〈供養〉する神道的な習慣なども紹介し、愛を注がれた人形が「息を吹き込まれる」日本の土壌を説明する。

 

日本全国で1年に1000体が売れるという小さな市場に関する逸話、作り手たちの証言も、なんとも面白い日本の風俗史本だ。(美)

http://sexes.blogs.liberation.fr/

desir-dhumain

”Un désur d’humain – Les love doll au Japon”Les Belles Lettres出版社376ページ。写真、版画など51点を掲載。25.90 €